家族新聞 浅田政志写真/共同通信社文 ~いまそこにある日常 家と家族のかたち

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家族新聞 浅田政志写真/共同通信社文 ~いまそこにある日常 家と家族のかたち

評者 山崎豪敏 本誌

 凶暴な津波に倒され、押し流され、潰される家。東日本大震災の報道で繰り返し流れた映像が目から離れない。家とはああも簡単に破壊されるものなのか。あの家々で暮らしていた家族はどうなったのか。

自然の恐怖と同時に、日本人はあの震災で、家が象徴する家族というものを鮮烈に意識する時間を持った。それは被災地から離れた東京や西日本の人々にとっても同じだったはずだ。

本書は、日本のさまざまな家族の日常を、写真家と報道記者の文章で切り取ったドキュメ
ンタリー・フォトブックだ。もちろん、世の流れである核家族化や単身化を体現する�家族”も登場する。一方で、1歳の赤ちゃんから60代まで20世帯32人が暮らす「コレクティブハウス」が紹介され、倒産した夫の実家を支える27歳のイラストレーターは「夫はもちろん彼の家族が大好きで。私、家族と結婚しました」と語る。日本世論調査会の調査では、「大家族で暮らすのが理想」との答えが60%に達した。生活共同体への志向か、と記者は書く。

不妊に悩み続けた夫婦、50歳の熟年結婚、身よりのない老女の後見人となった司法書士、ペットを家族として暮らす人。25の家族のかたちがあり、25のポートレートがある。それで十分なはずなのに、この本はそれら家族と関係ない「家屋」の写真をこれでもかと挿入する。人と切り離された家。背中がぞくっとする。あの日、映像で見た流される家と重なる。

日常はあやうい。人とのつながりが、日常をわれわれの下につなぎとめる。そのつながりを家族と呼ぶのだと、この写真家は語りかけているのか。

共同通信社文化生活班が取材、2008年末から1年間、21の地方紙に掲載されて高い評価を得た企画である。

あさだ・まさし
1970年三重県生まれ。自身の4人家族にさまざまな扮装をさせるシリーズが2008年写真集『浅田家』として刊行、第34回木村伊兵衛写真賞を受賞する。最近は全国のほかの家族を撮影する「みんな家族」シリーズを開始。

幻冬舎 1575円 174ページ

  

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