「怖い」と言われ…日本に住む黒人たちの苦悩 すれ違いざまに罵倒、留学生の中で孤立も

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同氏によると、TELLのサービスは多く3つの要素に分かれている。1つは英語の自殺予防ホットラインで、すぐに助けを求めることもできる(TELLはもともと、Tokyo English Life Line略)す。2つめはカウンセリング。さまざまな言語でライセンスを持つセラピストと対面で話すことができて、必要に応じて薬を処方できる精神科医に紹介もしている。

そして3つめはアウトリーチで、TELLのカウセラーが例えば、今回のようなイベントに参加するなどしてメンタルヘルスの問題や、TELLについての認識を高める活動をしている。

アフリカ系アメリカ人独自の「課題」

アメリカ出身のンタルヘルスカウンセラーで、パネルディスカッションにも登壇したジャタアン・グラスさんは、アフリカ系アメリカ人たちが日本で直面する独自の課題についてこう語った。

「アフリカ系アメリカ人は、ほかの国の黒人とは異なる自己概念を持っています」とグラスさんは語る。「私たちは自ら愛することを否定され、いわば飢えている状況にあります。だからこそ、日本へ来て自己概念を培おうとするとき、さまざまなニュアンスや発見を認知する必要があり、それがしばしば認知的不協和を引き起こします。学んだことが、人生で経験していることと一致しないことがよくあるのです」

アメリカで「否定された」と感じた人々は、日本へきて同化を試みるが、これもなかなか難しい。自ら「この社会にどうやって溶けこもう、人々は私をどう見ているのだろうか、私は自分をどう見ているのだろうか」と問いかけ続けるという。

「私たちはこれまで安定的かつ健康的な生活を送るために必要なスキルを育てることすら許されていませんでした。もともと(母国での)承認やサポートが欠けていたことに加え、今は同化に対処しなければならないのです。これはアフリカ系アメリカ人特有の体験ではないでしょうか」(グラスさん)

もちろん日本の伴侶や友人、同僚を持ち、日本で素晴らしい経験をしているアフリカ系外国人も多くいる。すべての日本人がアフリカ系の人々に向けて偏見を持ち、差別的に接しているわけでもないが、一部の人の言動がスティグマを与えてしまうことがある。

在日外国人にとって重要なのはTELLのような組織の存在を知ることだろう。一方、日本人も日本に住む外国人と触れる機会が増える中で、彼らが孤独感や孤立感を感じていないか、言語などで不便な思いをしていないかなど、まずは周りの人に対して思いを巡らせてもいいのではないだろうか。

バイエ・マクニール 作家

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Baye McNeil

2004年来日。作家として日本での生活に関して2作品上梓したほか、ジャパン・タイムズ紙のコラムニストとして、日本に住むアフリカ系の人々の生活について執筆。また、日本における人種や多様化問題についての講演やワークショップも行っている。ジャズと映画、そしてラーメンをこよなく愛する。現在、第1作を翻訳中。

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