志賀直哉の批判に激怒、太宰治の反論に共感する訳 日本人の家族信仰になじめない人へのエール

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マッチョな男性性を嫌い、家族を大切にする父親であることに違和感を覚え続けた太宰治は、父への遺恨と母への憧憬を『人間失格』に描いた。だからこそ、家庭を盾にえばっている同業者が、きっと彼は許せなかったのだろう。

太宰はこの随筆を書いた後、自ら命を絶つ。

人生とは、(私は確信を以て、それだけは言えるのであるが、苦しい場所である。生れて来たのが不幸の始まりである。)ただ、人と争うことであって、その暇々に、私たちは、何かおいしいものを食べなければいけないのである。
ためになる。
それが何だ。おいしいものを、所謂「ために」ならなくても、味わなければ、何処に私たちの生きている証拠があるのだろう。おいしいものは、味わなければいけない。味うべきである。(『如是我聞』(一))

役にたたなくても、人生は、おいしいものを食べなければいけない。そして自分は、おいしい小説を書くのだ。――そう言い残した太宰治の信念は、きっと今の日本でも、たくさんの「家庭信仰」になじめない人々をそっと励まし続けている。

三宅 香帆 文芸評論家

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みやけ かほ / Kaho Miyake

1994年生まれ。高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。天狼院書店(京都天狼院)元店長。2016年「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」がハイパーバズを起こし、2016年の年間総合はてなブックマーク数ランキングで第2位となる。その卓越した選書センスと書評によって、本好きのSNSの間で大反響を呼んだ。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)、『人生を狂わす名著50』(ライツ社刊)、『女の子の謎を解く』(笠間書院)『それを読むたび思い出す』(青土社)など著書多数)。

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