3月に欧米で起きた金融不安とは何だったのか クレジットアナリストの大橋英敏氏に聞く

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――クレディ・スイスの問題はどうみるべきでしょうか。

クレディ・スイスは2022年から赤字であり、訴訟も抱え、顧客資産の流出も続くなど問題をもっていた。アメリカで金融機関の破綻が起きたため、注目されて一気に経営不安が広がった。最終的に公的資金も投入しながらUBSが買収し、その一環でスイス当局の指示の下、資本増強のためAT1債の無価値化が決められた。

欧州では預金取り付けが起きているわけではなく、アメリカ以上に個別銀行の問題という色彩が強い。金融不安の内容が異なる。しかし、AT1債が毀損したので、不安の連鎖が起きてしまった。

健全行でも公的資金が入ればAT1債が無価値化する事態が発生したことを受けて、クレジット市場では同様に公的支援が行われてAT1債が毀損するところはないかを確認している状況だ。そもそも公的資金を注入するほど経営に疑義がある銀行がないかも調べている。

株式より先にAT1債は毀損することもある

――AT1債が無価値化したことで株式との弁済順位が逆転して問題だとの指摘もあります。

AT1債が株式よりも先に毀損する可能性があるのはクレジットアナリストの中ではよく知られた話だ。まず株式は破綻処理されないとベイルイン(損失負担)しない。

一方で、AT1債にはCET1トリガーというものが存在し、ほとんどの場合、CET1比率が5.125%または7%のどちらか以下になればベイルインされる。株式が無価値化しなくてもAT1債の元本はゼロになりうる。

なお今回、スイス当局はAT1債の契約にある「存続にかかわるイベント」(Viability Event)に抵触したとして無価値化している。その解釈が正しいかを問う声はあるが、スイス政府もそういう状況もあり得ると判断し、法的解釈は問題ないと考えているのではなかろうか。

とはいえ、多くのAT1債投資家はCET1比率が下がらなければAT1債は毀損しないだろうと思っていた面はある。そして「存続にかかわるイベント」などAT1債が毀損する可能性が出る前に、まずはCET1比率が先に下がって、AT1債の売買を検討する時間的猶予があると思っていたはずだ。

私も想定していたプロセスとまったく違うと感じた。AT1債は、ゴーイングコンサーンキャピタルと言われており、企業継続のために資本増強で使うことができる債権だ。今回の一連のプロセスで無価値化したのは仕方ない面があり、AT1債がどういう債権か理解される契機になっただろう。

――ほかの欧州金融当局は、株式とAT1債の弁済順位の逆転はないと声明を出して、市場を落ち着かせようとしています。

欧州でも予防的に公的資金が注入されるとTier2債以下が損失負担(株式転換)するため、クレディ・スイスと同様にAT1債が損失負担する可能性はある。実際、2016年にイタリア大手行のモンテパスキが経営不安に陥った際、イタリア政府は予防的に公的資金を注入したが、同行のTier2債以下は株式に転換された。

ECB(欧州中央銀行)やBOE(イングランド銀行)が弁済順位の逆転はないとしているのは、AT1債が株式に転換される形式になっているからと推察している。AT1債からの転換で株式が希薄化すれば、既存株主も損失を被ることもあり順位の逆転は起きない。

次ページ不安ムードは後退しているが…
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