3月に欧米で起きた金融不安とは何だったのか クレジットアナリストの大橋英敏氏に聞く
なお、日本のAT1債では、預金保険法126条を用いた公的資金注入は、AT1債のトリガー状況に抵触しない。そのような認識もあるためか、欧州ではAT1債の利回りが急拡大(価格は下落)したが、日本ではその動きは小さい。
信用収縮が起きるか焦点
――不安ムードは後退していますが、ひとまず危機は落ち着くのでしょうか。
そう考えている。ただ、リーマンショック時も大規模な金融機関の破綻処理は想定されず、そもそも政府も中央銀行もそれは容認しないとしている中で突如経営破綻が生じ、その後金融システム危機に至った。3月もVIX指数(値動きのボラティリティを示す別名「恐怖指数」)が上昇していないから市場は動揺していないという議論があるが、リーマンショック前も同様だった。1~2カ月は安定しても、その先はまだどうなるかわからない。
とはいえ、アメリカでは急激な預金流出が起こるプロセスへの監視の目がすでに入っている。「金月処理」(破綻金融機関の営業譲渡を迅速化すること)を行うなど素早く対応もできており、市場が過剰反応しないようにしている。
またリーマンショック時と違って、資産サイドで大きな損失が出ているわけでもない。リーマンショック前はすでに価格が下落した金融商品を抱えて、決算で損失を出してしまい自己資本比率が下がる金融機関が多く、不安が伝染するリスクが残っていた。これらの違いから、現在のように政府が監視を整えた状態が続けば、さらなる不安や危機が発展することはないだろう。
――実体経済への影響は出るのでしょうか。
金融システム自体が壊れるまでにいたらなくても、銀行経営自体が萎縮する可能性は十分にある。手元流動性を確保するために融資にお金が回らなくなる信用収縮が起きれば、景気後退に一気につながる可能性はある。
アメリカの国内銀行の預金残高をみると、中堅以下の預金は一時減少したが、その後減少幅は縮小している。一方、大手行の預金は中堅以下の預金が減少した週は増加したが、その後は減少している。全体でもマイナス基調が続いており、預金代替商品(MMFやCDなど)への流出は続いている。
また、金融当局からの借り入れも急増した後、残高は高止まりしている。中堅・中小銀行に貸し付けを行うFHLB(連邦住宅貸付銀行)は借り入れ要請があったら債券を発行して貸し付けているが、その債券発行額も一瞬増え、利用が急増したとうかがえる。
一方、銀行貸出残高は、3月22日時点では微減基調だが急減しているわけではない。市場が懸念している商業用不動産向け融資はむしろ増加基調にある。
これらに鑑みれば、3月下旬時限では金融危機や信用収縮が生じているというエビデンスは無い。しかし、当面の間、銀行預金や貸出残高を確認する必要はある。仮に信用収縮が起きれば、FRBの今年後半の利下げが視野に入るだろう。
リーマンショック直前の2008年の景況感では、製造業の購買担当者景気指数(PMI)は50.1、非製造業PMIは50.5と景況感の節目である50を上回っていた。それがリーマンショックで信用収縮が起きて一気に景気が後退した。
今後見ていかなければいけない最大のポイントは信用収縮が起きないかどうかだ。銀行経営の状態をみて、マクロ経済に血液(お金)がちゃんと流れているかを確認していく必要がある。
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