スズキ「スペーシア」軽ハイトワゴン苦戦の真実 電動化と半導体などの部品供給難に揺れる葛藤

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インテリア
スペーシア ハイブリッドXのインテリア(写真:スズキ)

スズキは、2012年のエネチャージを発端に、回生によるエネルギー回収だけでなく、エンジン出力の補助にも活用するマイルドハイブリッド化し、それを軽自動車の各車種へ展開していった。

またアイドリングストップの効果を高めるため、エコクールという機能を空調に追加し、赤信号での停止中に夏でも1分前後のアイドリングストップを実現するようにした。それに対し、国内外のほかの自動車メーカーのエンジン車やマイルドハイブリッド車は、アイドリングストップをしている間の空調効果を維持する機構を設けず、さらにはアイドリングストップをやめてしまうメーカーまで現れている。

軽自動車という、原価低減と利益追求にきびしい車種であっても電動化を導入し、その効果を可能な限り高める努力をしてきたスズキは、一方で、今回の半導体を含め自動車部品の供給難に向き合ったとき、影響がより大きく出たかもしれない。この点について背景の実証があるわけではない。だが、アイドリングストップ機構をはずした新車で販売台数を確保しようとするメーカーもある時代に、新車販売台数で順位を下げざるを得なかったスズキの苦悩の一端があるような気がする。

スズキらしさを貫く姿勢と販売での葛藤

スペーシア ギア
アウトドアテイスト溢れるスペーシア ギアのスタイル(写真:スズキ)

しかし、できることは何でも実行に移し、軽自動車にもEVが加わって堅調な販売を続けている今、電動化という環境技術を疎かにせず、販売に苦心するスズキの取り組みは評価されていいのではないか。新車販売での順位の下落は、魅力低下ではなく、周辺事情による結果であり、こうした時代こそ、奮闘するメーカーを応援するのも消費者の心意気といえるだろう。

世界情勢を受けるなかでの新車販売台数の上下に一喜一憂するときではない。消費者をお待たせしないためとの言葉で環境性能を落とすのではなく、自らの志を貫きながら苦境に立ち向かうメーカーを応援し続けたい。それが10年後の未来をより確実な社会にする原動力になるのである。

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1990年代はじめからスズキは、「小少軽短美」という標語を掲げてきた。その意味は、モノづくりにおいてユーザーへ提供する価値を最大にすると同時に、可能な限り「小さく」「少なく」、重さを「軽く」、費やす時間や距離を「短く」、また「美しく」するという意味だ。

「小少軽短美」というスズキの哲学にブレのない経営を見落としてはならない。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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