「息子が血を吐いた」想像を超える詐欺の最新手口 狙われる高齢者、食い尽くされる親のカネ
「何を言ってんだい。私がオレオレ詐欺なんかにだまされるわけないでしょう」
愛知県で一人暮らしをする田中芳枝さん(仮名、88)は、1年前に息子へ言い放った自身の言葉を、苦々しく思い出している。
近所で暮らす息子が「お母さん、自分はだまされないと思っている人ほどだまされるんだからね」と指摘したのに対し言い返したのだ。
自信はあった。詐欺を見抜いた経験があったからだ。電話口で「俺だよ」と口にした男に、「毅志なの?」と聞くと「毅志だよ」。そこで「毅志の声じゃない。あなたは誰?」と突いた。「風邪をひいていて」と慌てた男を、田中さんは「風邪をひいたら病院に行きなさい」と一喝し、電話を切った。
この体験が慢心につながっていたのかもしれないと、今は思う。
病院から突然の電話
自宅の電話が鳴ったのは昨年の、残暑が続く9月初旬、日が傾き始めた午後4時ごろのことだった。
「名大病院の耳鼻咽喉科の青木と申します。息子さんが喉から血を出して運ばれてきました。お母様に確認したいことがあって。親族に同じ経験をされた方はおられますか。遺伝的なものか、突発的なものなのか確認したいのです」
ひどく驚いた田中さんは、ひと呼吸置き、親族の病歴を頭に浮かべた。が、思い当たらなかった。
田中「親族にはいないと思います」
青木「そうですか。じゃあがん系統ではないなあ。わかりました」
田中「息子は今どういう状態なんですか。すぐ名大に行きます」
青木「意識はあるから大丈夫ですよ。ただ、声はしゃがれています。(電話)代わります?」
田中「はい、代わってください」
息子「お母さん、心配かけてごめんね。何とか声は出るけど痛いんだ。終わったら、そっち寄るから」
電話は切れたが、気は動転していた。5分後、再び電話が鳴る。
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