「息子が血を吐いた」想像を超える詐欺の最新手口 狙われる高齢者、食い尽くされる親のカネ

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上司「息子さん、また血を吐いたので、救急車を呼んだところです」

電話口では救急車のサイレンが鳴り響いていた。田中さんは頭が真っ白になる。

上司「息子さんと一緒に病院に戻ります。そちらには私の息子を行かせますから、お近くのコンビニで合流してください」

田中さんは150万円が入った封筒を手にコンビニへ向かった。若い男が「田中さんですか?」と声をかけてきた。「父から、お金を預かってくるように言われて参りました」。田中さんは封筒を渡した。男は頭を下げ、去っていった。

そのとき近くを黒っぽい車がゆっくり走行しているのが田中さんの視界に入る。妙な胸騒ぎがした。

自宅に戻った田中さんは、すぐ名大病院に電話をかけた。「そちらに青木さんという医師、おられますか?」と尋ねると、「おりません」と返ってきた。

日は、とっぷり暮れていた。

高齢者を喰う若年層

当時を振り返りながら、田中さんはため息をつく。「息子が血を吐いたなんて聞いたら母親は動揺する。そんな親心に付け込むようなこと、誰がやっているんでしょう」。

田中さんが被害に遭ったのは「オレオレ詐欺」。特殊詐欺の代表格だ。警察庁の定義によると、特殊詐欺とは「被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振り込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝も含む)の総称」である。

もちろんこの定義は一般論で、実際は実行犯たちの手練手管でいかようにも変わる。自分はだまされないと自信があった田中さんがだまされたのも、想像を超えるシチュエーションだったからだ。

警察が特殊詐欺の摘発に本腰を入れ始めたのは2004年以降のこと。被害額は年々増え、2014年には過去最悪の565億円に達した。その後、警察の啓発活動や防犯意識の高まりにより減少傾向となるも、コロナ禍の2022年には再び増加に転じている。

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