大塚家具、久美子氏のMBOがありえないワケ 総会後、予想される"第2ラウンド"とは?

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株主総会では久美子氏勝利。が、争いは今後も続く(3月27日の株主総会。撮影:今井康一)

もっとも、「このケースで言えば、久美子氏の口座のある証券会社やその口座番号を特定できないと、この類の申し立てを受け付けない裁判官がいる。ほふりは担保提供先の口座情報を決して開示しないので、債務者に開示を命じない裁判官に当たってしまうと、強制執行逃れの資産隠しはやりたい放題になる」(前出の弁護士)という。

もっとも、ききょう企画に大塚家具の株券が戻らなければ、久美子氏側からのMBOの成功の可能性が出てくるかというと、それもあり得ない。

MBOの資金を提供するファンドは、例外なく、100%支配を絶対条件にする。というのも、買収資金は買収のために設立したペーパーカンパニーに、ファンドが出資とローンで提供する。出資部分は最低限度に抑え、大半はローンで提供、少数株主の追い出しが済んだら、ペーパーカンパニーを買収対象会社に吸収合併させる。そうすることで、ローンを買収対象会社にツケ回す、というのがMBOのきわめて一般的な実務だ。

買われた会社がローンのツケ回しを、唯一の株主の利益のために行う分には何の問題もないが、他に少数株主が残っていると、利益相反を問われる。100%支配ができないディールに、ファンドは資金を出さない。久美子氏側からのMBOには勝ち目がなく、資金も付かない。ゆえに実行に移されることもありえないのである。

今後も燻り続ける火種

それでは勝久氏側からのMBOならどうか。兄弟姉妹中、ただ一人、勝久氏側に着いた勝之氏がファンドと組んで買収者になれば、勝久氏と千代子氏が保有する19.95%からのスタートとなるので、3分の2までのハードルは久美子氏に比べれば格段に低い。しかし、やはりききょう企画の件がネックになり、資金が付かないだろう。勝久氏とききょう企画の訴訟は、まだ1審の結論も出ていない。控訴審、上告審まで争うとなったら、結論がでるのは何年も先になる。

そもそも、長年無借金を貫いて来た勝久氏が、買収資金を銀行どころかファンドに借り、手塩にかけて育てた会社に借金をツケ回された挙げ句、経営の主導権をも握られる、などという事態に耐えられるわけがない。広告宣伝を打てば売上高が伸び、売上高が伸びれば利益はおのずと付いてくるという発想の勝久氏に、借入金を使ってレバレッジをかけ、高い資本効率を実現すべし、などというセオリーが通じるとも思えない。

各種報道では、総会で想像以上に支持を得られなかったことがこたえ、勝久氏はすでに戦意を喪失しているとも伝えられる。それが事実なら、進行中の2件の訴訟もあっさり取り下げてしまいかねない。が、それでも、勝久氏は2割弱を保有する筆頭株主であり続ける。MBOで一気にカタを付けることができない以上、火種は燻り続けるということだろう。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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