大塚家具、久美子氏のMBOがありえないワケ 総会後、予想される"第2ラウンド"とは?

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債権者である勝久氏側としては、訴訟の対象物である大塚家具株式がどこかへ転売されてしまわないよう、保全を図るため、仮差し押さえなどの手続きをとることがこの類の訴訟の常道だが、それはできなかった。

勝久氏からの提訴直前に、久美子氏個人に譲渡担保として差し出されたため、大塚家具株式は、ききょう企画の証券口座から久美子氏個人の口座へと、移されていたからだ。債権者である勝久氏にとって、債務者はあくまでききょう企画なので、名義を債務者ではない久美子氏に変えられたら、仮差し押さえは認められない。

上場会社の株券が電子化されて以降、上場株式を担保提供する場合は、証券保管振替機構(ほふり)を通じ、担保権者の証券口座に株式を振り替えるようになった。このままだと、株主名簿上も、担保権者の名義に変わってしまう。そのため、担保を提供した本人が証券会社を通じ、ほふりに対して「口座名義はA銀行だが、自分が真の所有者」であることを届け出る、「特別株主の申し出」という手続きを踏むルールになった。

大塚家具の株券の行方

勝久氏は裁判上は有利だが…(2月25日の記者会見。撮影:尾形文繁)

実際にききょう企画は、久美子氏に担保提供したことを2013年11月1日付の大量保有報告書で明かにしているので、担保提供が行われていることは間違いがない。しかし、担保提供に見合うだけのお金を、ききょう企画が久美子氏側から借りている事実はない、それはききょう企画の決算書を見れば一目瞭然。この譲渡担保設定は明かに、債権者からの差し押さえ等を免れることを目的とした仮装行為だ、というのが勝久氏側の主張である。

このため、勝久氏側は久美子氏に対し、実態のない担保は解除し、ききょう企画の証券口座に株式を戻すよう求める、株式振替請求訴訟を起こしている。「日本では貸し付けの事実がない担保は無効になる」(債権回収実務に詳しい弁護士)ので、勝久氏側が裁判所に提出しているききょう企画の決算書がニセモノでない限り、ききょう企画に勝久氏が大塚家具株式の返還を求めている訴訟の結論に関わりなく、理屈の上では久美子氏側に勝ち目はない。

ききょう企画の口座に大塚家具の株券が戻れば、勝久氏側が仮差し押さえをすることが可能になる。仮差し押さえが付いている株式を、TOBに応募することはできない。久美子氏側は80.05%どころか、70.3%の中から66.7%の応募を必要とする。先の総会で勝久氏側に回ったフランスベット保有分の約3%が落ちれば、67.3%の中から66.7%の応募を必要とする状況に追い込まれる。

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