今の金融不安はリーマンショックと何が違うのか シリコンバレー銀破綻、クレディ・スイス危機の本質

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今回の経営破綻では、金融マーケットが開くまでに、預金の全額保証や買収先まで決めてしまうという異例の素早さだったのだが、なぜここまで素早く対応する必要があったのか、また預金保険の上限(1人当たり25万ドル)を大きく超える預金に対しても保証する必要があったのか、そのあたりの疑問は今のところ明らかになっていない。

<クレディ・スイス銀行>

スイスの金融大手クレディ・スイスグループは、以前から経営危機の噂があった。そんな中でアメリカの金融不安が飛び火して、同行の預金流出が急速に進行。業績悪化も加わって株価は大きく下落。信用不安が世界中に広がるかと思われたのだが、スイスの金融当局は、アメリカ同様に救済に動き出す。結局、同じスイスの金融最大手の「UBS」が買収することになり、預金の大量流出=経営破綻を防ぐことに成功した。

もっとも、その反面でクレディ・スイス銀行が発行している「AT1債」の保有者に対して、同債券が無価値になることをUBSが通知。世界中の金融機関に動揺が広がった。AT1債は、金融機関が自己資金を増強する際に使われるもので、2011年のリーマンショック以降、積極的に販売されてきた債券だ。今のところ、このAT1債を大量に保有している金融機関や投資家グループ等が破綻したという話は出ていないが、新たなリスクとして認識されるようになっている。

<ファースト・リパブリック銀行>

3月16日、アメリカの中堅地方銀行で破綻の恐れがあると懸念されていた「ファースト・リパブリック銀行」に対して、アメリカの大手11行が総額で300億ドル(約4兆円)を預金したと報道された。SVBやシグネチャー銀行の破綻が相次いでいたため、事前に預金という形で資金を供給したと考えられている。それだけ、銀行システムへの懸念が高まっている、といった見方をしたほうがいいのかもしれない。

同行は、その前週に株価が70%近くも急落しており、預金を引き出されるターゲットにされるのではないかと危惧されていたが、大手銀行がタッグを組んで金融システムの安定化を目指した、と考えられている。

株価が急落しているといえば、以前から経営基盤が脆弱と指摘されてきたドイツ銀行を筆頭に、欧州の大手銀行株は2月末と比較して3月24日時点で、軒並み20~27%の下落率となっている(日経電子版「欧州でも金融不安拡大 ドイツ銀行株、2月末比で3割下落」2023年3月25日配信より)。

リーマンショックとは異なる危機?

今回の銀行破綻や金融システムへの危機対応は、どうしても2008年に起きたリーマンショックと比較しがちだが、その違いは明確だ。リーマンショックは、デリバティブや金融工学を駆使したレバレッジド・ファイナンスが大きな危機に見舞われたが、今回は債券価格の下落という現物商品の危機が表面化しているものだ。

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