民衆を治められる君主と寝首かかれる君主の大差 『君主論』が説く、リーダーに求められる振る舞い

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一方、言語も風習も制度も違う地域の領土を手に入れると、それを維持するには大きな幸運と努力が必要になる。この場合のもっとも効果的な策は、トルコがギリシアに対して行ったように、新たな君主自らがその領土に移り住むことだ。

トルコの君主は、たとえ他にどんな策を講じたとしても、自らそこに移り住まなかったならば、ギリシアを統治しつづけられなかったはずだ。

現地に住めば、不穏なことが起こりそうなときには、察知してすぐに対処できる。しかし、遠くにいたら、事態が大きくなってから知り、手遅れになる。

さらに君主が住んでいれば、その地域を任せた重臣たちにその地を奪われることもない。君主に従順な住民たちは、君主がそばにいればすぐに訴えを聞いてもらえるので安心でき、従順でない者たちは、反対に君主を大いに恐れることになる。そうなれば、外部から攻め入ろうとする者も、より慎重にならざるを得ないだろう。

つまり、君主が新しい領土に住んでいれば、やすやすとその国を奪われることはないのである。

「寛容」か「抹殺」か一本化する

もう1つの効果的な策は、新しい領土の拠点となる1、2箇所に移住民を送り込むことだ。そうしなければ、多数の騎兵や歩兵を駐屯させることになり、莫大な費用がかかる。

移住民を送ってそこに住みつかせれば、君主はまったく、あるいはわずかしか費用を負担しないですむ。移住民によって田畑を取り上げられる者(地元民)も出てくるが、それはほんの一握りにすぎない。その人たちはばらばらになって貧困に陥るので、結局、君主にとって危険な存在になることはない。

それ以外の人たちは損害を被らなかったので、新たな君主に従順になり、さらには、自分たちも下手なことをすれば略奪されてしまうのではと怯えて、おとなしいままだろう。つまり、拠点に送られた移住民は君主により忠実で、元からいた住民を傷つけることもあまりなく、略奪された人々も貧困に陥ってばらばらになるので、君主を害することがないのである。

ここで一つ大事なことがある。民衆に対しては、優しくするか、あるいは抹殺するかのどちらかにしなければならない。というのも、人間は軽く傷つけられたときには仕返しをしようとするが、大きなダメージを受けると復讐できないからだ。

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