企業の実感どおりに、労働市場全体で人手不足感が非常に強まっており、3%台半ばにある失業率のさらなる低下が難しいのであれば、名目賃金はこれまでのような緩やかな伸びに止まらず、上昇圧力がもっと強まっているだろう。労働市場においても、需給動向が名目賃金という価格に反映するメカニズムは相応に働くためである。
「正常化」に戸惑う企業、なお低下余地ある失業率
では、冒頭で示した、企業が感じ続けている「人手不足感」の強まりについてどう考えればよいか?「デフレと恒常的な人手余り」が約20年にわたり続いていたため、現在起きている労働市場の正常化に対して多くの企業が戸惑っていることが、「人手不足感」として表れているのかもしれない。
現行程度の賃金やサービス価格の伸びに止まっていることを踏まえれば、失業率がこれ以上低下しない限界に達している可能性は低いと思われる。むしろ、サービス価格や賃金の低い伸びが今後さらに高まる過程で、労働市場の需給が一段と引き締まり、さらなる失業率の低下が続く可能性がありえる。
実際に2007年にも失業率は現在同様に3%台半ばまで改善したが、賃金上昇率はほとんど加速しなかった。
当時は、日本銀行が利上げを始めていたが、実際には失業率の低下余地がまだ残っていた可能性がある。日本の場合は3%台程度の失業率では、賃金上昇をもたらすほど需給が引き締まっているとは言えない可能性が十分あるということである。
インフレ率を加速させない失業率がどの程度の水準であるかには、不確実性がつきまとう。人口構成の変化や、労働市場から退出していた潜在的失業者数の存在など、さまざまな要因が影響するためである。
このため、失業率の下限について、経済成長率やインフレ率などの状況に応じて、失業率の想定を柔軟に考える金融政策運営が実践的である。
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