「北朝鮮ハッカー」エリート集団の奴隷的な扱い 祖国の偽善を知り、家族は人質として拘束される
数学とコンピューターの才能があれば、もうひとつ別の恩恵にもあずかれる。海外旅行だ。ハッカーになる以前の段階で、北朝鮮の数学の天才児たちは、もっとも分野が絞られた世界的コンテストの「国際数学オリンピック」に参加し、外の世界を体験することができる。
北朝鮮も代表チームを結成して大会に派遣しており、この国の「数学戦士」はトップ10に入ることも珍しくない。中国やアメリカなど、人口も資源も豊富な国と並んで、非常に優秀な成績を収めている。
国際数学オリンピックの参加者で、その後脱北した人物は、開催国ではじめて目にした街灯のまぶしさ、行き交う大量の車を見たときの驚きの光景について語っている。このような体験は通常、平壌のエリート層だけにしか許されていない。そして、数学オリンピックは参加する北朝鮮の若者たちが緊張を解き、世界の人たちと交流する機会にもなっていたようである。
ハッカーも北朝鮮の「サイバー奴隷」である
しかし、ゆくゆくはサイバー兵士となる北朝鮮の数学の天才児たちは、時には望外の特権を享受できるとはいえ、それに見合うだけの数々の苦難に耐えなければならない。北朝鮮のハッカーの大半は、何百万人もの同胞と同じように、この国の軍隊の一員であり、そのような存在として扱われている。
太永浩が言うように、「サイバー兵士に選抜されたら、たしかに配給はよくなるだろう。だが、生活が大変になるのはやはり軍隊だからだ。たとえば朝は6時に起床。一睡もしないまま10時間、15時間、20時間、働き続けられるだけの体力もいる。そうした理由から、サイバー教育の分野では、政府はとくに優秀で才能を備えている青年を選んでいる」のだ。
また、政府直属のハッカーの多くは北朝鮮国内で働いているという。「彼らの全生活は北朝鮮のほかの社会から隔離されている。軍の施設から簡単に出られないよう、彼らは閉鎖された空間で働いている」。
軍のハッカーと中国で交流があった脱北者の一人は、彼らのことを「サイバー奴隷」と評していた。彼らハッカーには、年間少なくとも1万ドルの利益をあげる任務が課せられていた。稼いだ金の大半は最終的に平壌に送られていく。大連に暮らしていた李賢勝が言うように、「彼らは月に300ドルの給料をもらい、それは彼らの報酬となっていたが、残りはすべての上層部の人間のところに直接流れていった」。
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