「北朝鮮ハッカー」エリート集団の奴隷的な扱い 祖国の偽善を知り、家族は人質として拘束される

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北朝鮮が国境を越えてハッカーを送り込むのは、この国ならではの理由がある。国外に人を派遣することが、自国以外の世界のほかの国の考え方やコミュニケーションの方法を学ぶ機会になっているのだ。攻撃相手をだますために効果的なフィッシングメールを送るには、相手が属している文化に精通していなくてはならない。だが、情報が厳しく管理された北朝鮮のような隔離社会ではそれはできない。

「彼らの仕事はインターネット社会や相手国の文化に溶け込み、オンラインゲームやインターネットカジノ、あるいはSWIFTのような銀行間取引などからどうやって祖国の政権に収入をもたらすか、その方法を考えることなのです」と、ある米NSAアナリストは言う。

海外に派遣された北朝鮮のハッカーはオープンなインターネットにアクセスすることができる。アクセスはそれぞれの担当者によって厳しく監視されていたのは事実だが、祖国で暮らす者に比べれば、情報にアクセスできる裁量権が必然的に授けられており、その自由度は、インターネットへの接続が指導教員によって指示されている大学生さえ比べものにはならなかった。

その過程で彼らは、必然的に北朝鮮の政権が人民に説いてきた噓や、世界の大半の国々と比べて祖国が絶望的な貧困のもとで暮らしている現実を知ることになった。それにもかかわらず、彼らはともかく国のために働き続けてきた。なぜ働くことができるのだろう? 理由はひとつではない。つねにアメとムチが使われてきたのだ。

ハッカーになれば北朝鮮の階級制度から抜け出せる

ハッカーになることは、この国の厳格な階級制度から逃れられる手段である。北朝鮮の社会では人びとは3階層の「出身成分」に分類されており、分類はそれぞれの家族の出自と、国の創設者である金日成とその後継者との関係にもっぱら基づいている。一度その身分に分類されると、抜け出すことはまず不可能だ。しかし、元駐英北朝鮮公使で脱北者の太永浩によると、この運命から逃れる方法はいくつかあるという。

階級を変えるドアは、「まず、スポーツの分野に対して開かれている。サッカーのプレイヤーとしての才能に恵まれていること、あるいはオリンピックもしくはそれに相当する国際大会でメダルを取ること。2枚目のチケットは音楽で、ピアニストやダンサーとしての成功だ」。

「そして、3枚目がコンピューター科学だ。数学が得意なら、平壌から遠く離れて暮らしていても、首都以外でも数学の大会が開かれる機会がある。下層階級の子弟として、それでも平壌に行きたいとか、あるいは身分階層を向上させたいなら、そのときは死にものぐるいで数学の勉強をしなければならない。本当の競争が可能なのがこの分野だ。そして、優秀であると証明できれば、ほかの者には進めない特別な学校に選抜される」。

数学の才能に恵まれている者なら、コンピューターの世界に進むことができるという。「学校ではコンピューター教育は、11歳か12歳で始まる。『サイバー戦士』を育成するため北朝鮮には非常に洗練された教育システムが用意されている」。

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