2008年から始まるショックはECBの歴史上で「初めての危機」であり、あらゆる方策に前例がなかった。「走りながら考える」という状況にあった当時と比べれば、今は大分落ち着いた対応が可能なはずである。
もっとも、こうした域内金融システムの頑健性を誇示するために、従前のコミットメントを修正するわけにはいかなかったという事情もあるのだろう。2月会合で「極端な(quite extreme)場合」でなければ0.5%引き上げると述べた以上、これを修正すれば「極端な(quite extreme)場合」が実現したと認めることになる。
ある意味で退路を断った意思決定であり、今後万が一、域内金融機関へ(それがたとえ真偽不明で根拠薄弱なものであっても)類似の疑惑が出ることは許されない。そうなれば「世紀の失策」と呼ばれるリーマンショック2カ月前の2008年7月の利上げ、欧州債務危機さなかの2011年4月の利上げに続く3度目の失敗として、強い非難を浴びることになるはずである。
見受けられるECBのロジック
実際、会見では、ある記者が「2008年7月と同じミスをしているのではないか」と投げかけており、当時を記憶する向きほどこの懸念を抱くのは当然である。
だが、上述した通り、厳格な銀行規制によりショック耐性は強まっているし、クレディ・スイス問題に限って言えば、デギンドス副総裁も会見中に「域内金融システムのクレディ・スイスへのエクスポージャー(保有資産のうち関連する部分)に関し、極めて限定的であり、集中している様子もない」と断言する場面もあった。
あくまでクレディ・スイス問題が域内金融システムに波及することはなく、だからこそ0.5%引き上げても何の問題もないというのがECBのロジックと見受けられる。
本当に注目されるのは、先行きについてのガイダンスの制約から解放される次回会合(5月4日)以降の挙動だろう。
この点、記者からは「今後の利上げ軌道を説明してほしい。2~3日前までは3月会合後もさらなる利上げがほぼ確実に見えたが、今回の声明文ではガイダンスが示されなかった。これはもう利上げはピークを打ったということを意味するのか」との質問が見られた。これに対してラガルド総裁は不透明感が強いことを認めつつ、今後はデータ次第である旨を強調している。
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