10年続く「孤独のグルメ」マンネリ化しない必然 原作者の久住さんにドラマの裏側を聞いた

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それと同時に、料理と同等かそれ以上の尺を割いて取り上げるのが、飲食店そのものと、そこで働く人たち。人間ドラマによって料理の背景が描かれることが、より立体的にその味を伝えることにつながる。

「料理とお店のイメージだけを伝えるグルメ番組とは違います。店主がどういう人でどんなお店なのか、そこに来るお客さんやお店の周囲の風景、街を丁寧に取り上げます。描きたいのは料理だけではなくて、お店も人もすべて。そのすべてが料理の味になっているから」(久住氏)

料理をとりまく環境や要素をすべて描くことで、そのお店と、お店が提供する料理に真摯に向き合う作品の姿勢が浮かび上がるのだ。

グルメサイト評価至上主義へのアンチテーゼ

もう1つ、本ドラマの特徴的なところは、有名店や人気の名物メニューを取り上げるのではなく、知らない街の名もない飲食店で特別ではない普通のメニューのなかの料理をピックアップすること。

どこにでもある身近なお店にも、おいしい料理はいくらでもある。「孤独のグルメ」では、それを発見することの楽しみを提示している。それは、昨今のグルメサイトで3つ星以上の店を探すのが当たり前になっている時代へのアンチテーゼにも見える。

「アンチテーゼという考え方はしたことありません(笑)。でも、みんなが騒いでいるお店やテレビに出ていたお店に行くだけじゃなくて、いいお店はどこにでもあるから探してほしいという気持ちはあります。友だちが知らないおいしいお店や料理を見つけるのは幸せなことです。それが自分の住む街に前からあったお店だったり、そこが新たな行きつけのお店になったりするとうれしい。そういうお店を1つでも2つでも増やしてほしい。僕は近所の飲食店を応援していますから(笑)」

そんなドラマが10年続く人気番組になっているのは、そういう意識を持った人たちが増えるとともに、食に関するライフスタイルの価値観や生き方そのものの意識も多様化していることの表れでもあるのだろう。

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