「他人頼みの国が危ない」君主論が説く普遍の鉄則 逆境になれば防御力に欠け、何事も運任せになる

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したがって、君主は、平時においては傭兵に、戦時にあっては敵に剥奪されてしまうのだ。そもそも、傭兵にとっては給料を受け取るため以外に、戦場にとどまる動機も愛着もまったくない。その給料の額たるや、君主のために生命を投げ出すにはあまりに少ないのだ。

君主が戦争をしないうちは兵としてつかえようとするが、いざ戦争になると戦線から逃げ出すか、どこかにいなくなるかのどちらかだろう。

これは今日のイタリアの没落が、長年にわたって傭兵に頼り切っていた結果であることを見れば明らかだ(「君主論」執筆時のイタリアは統一国家でなく、各都市が独立国の様相で乱立していた)。傭兵軍が勇敢に見えるのは仲間内にいるときだけで、外国軍がやってきたとたんに化けの皮がはがれてしまった。こうして、フランスのシャルル王は、実際に戦うことなく、チョーク1本で印をつけるだけでイタリアをまんまと占領した。

外国軍頼みで国を乗っ取られることも

経験的に、武力を備えた君主および共和国だけが大きな発展を遂げたが、傭兵軍は損害しかもたらさなかったといえる。そして、自国軍をもつ共和国のほうが外国人部隊で武装している場合より独立を保てる可能性が高い。たとえば、ローマとスパルタは、何世紀にもわたって軍備を整え、独立を守ってきた。スイス人も強い軍隊を持ち、完全に自由である。

古代の傭兵軍には、カルタゴが挙げられる。ローマとの第一次戦争が終わったとき、カルタゴは自分たちの市民を指揮官にしていたにもかかわらず、傭兵に制圧されそうになった。ミラノ人は、フィリッポ公の死後、フランチェスコ・スフォルツァを雇って、ヴェネツィアを攻略した。するとスフォルツァは、カラヴァジョで敵を破ってから、雇い主のミラノ人を制圧するために、今度は敵だったヴェネツィア人と手を組んだ。

役に立たないもう1つの戦力に、外国からの援軍がある。最近では、教皇ユリウス2世がフェラーラを攻略した際、傭兵隊が一向に戦果をあげないのをみて行ったことである。彼は、スペイン国王フェルナンドと同盟を結んで、軍隊を送り込んで援助してくれるよう要請した。

こうした援軍はそれ自体は役に立つのだが、呼び寄せた者にとっては大いなる禍いとなる。

というのも、彼らが敗北してしまえば自らも滅亡してしまい、反対に勝利した場合には彼らの捕虜にされてしまうからだ。こうした例は昔から枚挙にいとまがない。

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