日本製鉄が「筋肉質」になって高めた実力の現在地 森副社長「これまでの取り組みに自信を深めている」

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――在庫評価差などを除く実力ベースの事業利益は、2021年度が約6900億円でした。2022年度は粗鋼生産量が大きく落ちる中でも6900億円を見込んでいます。目標としていた6000億円以上を確保する収益構造が構築できたのでしょうか。

目標は「どんな状況でも6000億円以上の確保」なので安心はしていない。とはいえ、2年連続で6000億円を上回っているのは事実だ。

日本製鉄の粗鋼生産量と利益推移

――本体国内製鉄事業は筋肉質になったことで、数量が増加に転じれば一気に利益が拡大すると思います。問題は鉄鋼需要の回復具合です。どのように見ていますか。

各国の市況は上がってきている。ただし、市況改善は供給側の減産や中国経済の回復期待の要素が大きく、実需が回復しているとまではいえない。国内需要は自動車関連が少しずつ戻ってきているが、海外需要はまだ期待感の域を出ていない。

影響が大きい中国の動向がはっきりと見通せない。中国の宝山鋼鉄の幹部は中国政府が経済のテコ入れに動き出すので2023年4~6月期から良くなると言っている。ゼロコロナ政策からの需要の戻りがある。ただし、リーマンショック直後のような大型経済対策による急回復は見込んでおらず、穏やかな回復になるのではないか。

利益「上乗せ」のさまざまな要因

――今期(2022年度)は在庫評価差等のプラス要因として1900億円を見込んでいます。そうすると来期(2023年度)の業績はどうなりそうですか。

(1900億円の)在庫評価差がどうなるかはわからない。それを除いた実力ベースの事業利益では来期のプラス要因がかなりある。

森高弘(もり・たかひろ)/1957年生まれ。東京大学法学部卒、ペンシルベニア大学経営大学院卒業。1983年新日本製鐵(現日本製鉄)入社、人事や海外営業を経て2009年経営企画部部長、2014年執行役員、2016年ウジミナス社副社長、2020年、日本製鉄常務執行役員、2021年4月から現職(写真:日本製鉄)

まずは日鉄物産の子会社化がある。2023年度第1四半期に連結子会社として業績反映となる予定だ。持ち分法適用から連結子会社化することで400億円近い利益増要因になる。

先日発表したカナダの原料炭事業会社Elk Valley Resources社への出資もある。2023年の4~6月に10%の株式取得を完了する予定だが、17.5%まで買い増す権利を持っている。15%超で持ち分法適用にできるので、早い時期に15%を超えたい。年間で400億円、来期は半年取り込めるとすれば200億円規模のプラス要因になる。

また、インド合弁会社で港湾施設や発電設備を買収したことによるコスト削減効果が必ず出る。

このほか、同社では原料にLNG(液化天然ガス)を使用しており、操業コストの安定化のために長期間のヘッジを行っており、今期のヘッジ取引で利益が出ている。本来は今期に利益計上をしたかったが、来期にずれ込んでしまう。金額までは言えないがそれなりに利益の下支え効果がある。

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