「700万円損」負けるまで買わせる仕組債販売の闇 狙いは表面からは見えにくい多額の手数料

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要するに、ノックアウトで稼ぐことができる利率に比して、ノックイン時の損失が大きすぎるということだ。金融庁は2022年公表資料「資産運用業高度化プログレスレポート」で、株式の代替として「EB債を購入する意義はほとんどない」と厳しく断じた。

言い換えれば、「特定の株式に連動する仕組債を購入するよりは、その株自体を買ったほうが投資効率がよいので(実際に利益が生じるかは別として)、仕組債を買う意味はない」ということになる。

「仕組債の商品設計は多少複雑だが、金融機関がしつこく顧客に勧める理由はいたってシンプル」と金融庁職員は語る。「ノックアウトのたびに同種の仕組債を繰り返し売りつける『回転売買』のような営業慣行によって、手数料を荒稼ぎできる」ためだ。

「ノックインで700万円失った…」

実際に「回転売買」的な営業活動の餌食となり、多額の損失を被った例は珍しくない。

千葉県木更津市で農業を営む男性(70)。2018年ごろ、県内の有力銀行から「話したいことがある」と連絡が届いた。ちょうど、預金残高が2000万円に達した直後だった。

店舗に赴くと、系列関係にある証券会社の担当者が出し抜けに現れて名刺を渡された。投資経験の乏しい男性に対し、担当者は資産運用を提案。「元本割れは避けたい」と男性が伝えたところ、最初は仕組債の一種であるコーラブル債を勧められた。

コーラブル債は仕組債の中でも比較的、値動きが安定しているとされる。500万円分を購入し、1年間で一定の利益を得た男性に対し、担当者は次に日経平均などに連動するリンク債を、3度目にはソフトバンクなどの株価に連動するEB債を勧めてきた。いずれもコーラブル債よりリスク水準の高い仕組債だ。

説明を聞いた男性は当初「リスクが高いのでは」と難色を示したが、担当者は執拗に説得を続け、結局、男性はソフトバンク社の株価に連動するEB債に2000万円をつぎこんだ。証券会社の担当者とのやりとりは基本的に、銀行の店舗内で行われたという。

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