「700万円損」負けるまで買わせる仕組債販売の闇 狙いは表面からは見えにくい多額の手数料

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約半年後の2022年12月、ソフトバンク株の急落によってEB債のノックインが発生し、男性は約700万円の損失を被った。「銀行の店舗で、まさか危ない商品をつかまされるとは思っていなかった。亡父から託された大切なお金だった。子供のマイホーム購入資金に充てることができたはずなのに」と悔やむ。

参加者にサイコロを振らせ、「1」から「5」の目が出る(ノックアウトする)と参加者が一定の利益を得る。味をしめた参加者に対し、胴元はより多くの「賭け金」を詰み上げさせる。こうしてサイコロを繰り返し振り続けさせ、「6」の目が出る(ノックインが発生する)までの間、顧客に過大なリスクを背負わせたままゲーム参加料(オプションプレミアムの中抜き)という甘い汁を吸いつくすのだ。

トラブルの増加を重く見た金融庁からの働きかけを受け、日証協は2月15日に勧誘基準の厳格化を盛り込んだ自主ガイドライン改正案を公表。当局は日証協の対応が実効性を伴わないとみれば、内閣府令の改正による開示ルール強化を辞さない考えだ。

金融庁の責任を問う声も

仕組債の販売手数料に依存したビジネス慣行の撲滅に向け、金融庁が業界に追い討ちをかける一連の動向は、悪徳な商慣習がはびこる民間事業者に対し“お上”が正義の鉄槌を下すという構図のように見える。

たしかに、投資経験の少ない高齢者にハイリスク商品を押し付ける金融事業者のやり口は、擁護できるものではない。一方で、業界関係者からは「仕組債販売過熱の責任は当局にもある」(金融商品仲介業者幹部)という声も聞こえる。その言い分は「2021年1月の監督指針改正が仕組債ブームの契機になった」(同)というものだ。

2021年1月に実施された監督指針の改正は、業界内で「回転売買禁止ルール」として話題になった。従来は、証券会社が手数料目的で顧客に同じ投資信託を10回売買させても、その投信自体の商品性が顧客ニーズに即していると説明できるのであれば、直接違反を認定することができなかった。しかし、新たな改正案では、一連の取引の妥当性が検査の対象になり、回転売買に対する抑止力が強化されたのだ。

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