認知症介護で大変な「トイレの失敗」でのNG行動 「ごめんね」と「ありがとう」の2つがセット

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私はこれまで、手法的な部分を伝えることばかりに注力していたが、大事なポイントを見落としていた。榎本さんの体験談を伝えた方がいい、いや絶対に伝えなければいけない、と強く感じた。それだけ榎本さんの言葉は私の中で響いたのだ。サポートするつもりで横についていたが、参加者の中で私が一番勉強させられたに違いない。

認知症ケアの世界では100点満点は絶対に取れないといわれている。たとえ、自分が100点だと思っていても、本人にとっては60点くらいにしか感じてもらえないことだってある。どれだけいい介護をしようと心がけても、情報がないとうまくいかないものだ。

これまでどのような経験をしてきたのか、それを加味しないと声がけ一つとっても変わってくる。ラフに話しかけた方がいい人もいれば、恭しく接した方がうまくいく人もいる。その人の人生の軌跡を追いかけ、そして寄り添いながら、接していくことが大切なのである。

認知症の人の世界、家族の人が見ている世界

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介護者の集いが終わり、皆さんが帰り支度をしているとき、私は榎本さんに声をかけた。

「今日はとても勉強になりました。病院施設で介護する人間として、私は明らかに伝え方に不足があったと感じました。私自身、榎本さんのお言葉を実践しつつ、色んな方にお伝えしても良いでしょうか?」と尋ねた。

すると、榎本さんは私の申し出に少し驚きつつも、「良い悪いなんてありませんよ。みんなに伝えていかないといけないことよ! ぜひともお願いしますね」と言ってくれた。

私はなんだか榎本さんから大切なバトンを受け取ったような気分になった。そこからだ。私が認知症の人の世界、家族の人が見ている世界というものにすごく興味を持つようになったのは。

川畑 智 理学療法士

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かわばた さとし / Satoshi Kawabata

2002年、熊本リハビリテーション学院卒業後、国家資格「理学療法士」を取得。急性期・回復期・維持期のリハビリに携わる。病院・施設勤務の経験と、地域づくりやまちづくり、社会福祉協議会勤務の経験を活かし、水俣病発生地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年、株式会社Re学を設立。熊本県を拠点に、病院・施設における認知症予防や認知症ケアの実践に取り組むと共に、国内外における地域福祉政策携わる。

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