心理的安全性を下げる「ダブルバインド」の正体 「明確な構造」がない職場に生じる落とし穴
この話を聞いて、皆さんはどう感じますか? 違和感を覚えるのは、僕だけではないと思います。
会社や人材開発部は「自分たちらしく働きながら、海外にもどんどんチャンスを広げていこう」と新入社員を激励しながら、一方では「はしゃぎすぎはよくない。行動を慎みなさい」と抑え込もうとしています。彼らは道端で冗談を言って笑い合っていただけで、誰かに失礼なことを言ったわけではないのに。この出来事は僕の中で小さなトゲのようにずっとひっかかっています。
あのとき新入社員は、「自分たちらしく働こう」という前向きなメッセージと、「行動を慎むべき」という抑圧的なメッセージを同時に受け取りました。このように相反するメッセージが混在する状態を「ダブルバインド(二重拘束)」と言います。メッセージを受け取る側は、どちらのメッセージに従えばいいのかわからず混乱します。「こっちで大丈夫だろうか」「後で怒られないだろうか」と疑心暗鬼にもなります。
また、同じことをしても、ある人からはOKと言われ、別の人からはNOと言われるかもしれず、自信を持って発言したり、仕事をしたりすることができません。
「言っていること」と「やっていること」が違う
また、こんな場面にもよく出くわします。
役員「今日は若い皆さんの意見を社長に伝える会です。どんな意見でも構わないので、言ってください」
社員「はい。ええと、我々はもう少しお客様のことを見たほうがいいと思います」
役員「え? 何言ってるの? 顧客のことはちゃんと見てるよ。だってNPSスコア(ブランドや商品に対する顧客の信頼や愛着を示す指標)を取ってるでしょ」
「どんな意見も聞く」と言いながら、経営者自身が若手社員の意見を否定しているのです。意見を聞いてもらえると思って発言した若手社員は、冷や水を浴びせられた気がして、「意見を言ってもいいの? 言わないほうがいいの? どっち?」と混乱するでしょう。
「何を選択すればいいのか」「どう行動すればいいのか」という構造が明確でない状態では、人は自分の行動がどう評価されるかわからないので、行動をためらいます。評価者の顔色をうかがいながら動くようになります。
また、チームとしての目指す方向や評価の基準がわからなければ、健全な意見の対立は望むべくもないでしょう。議論するうえで必要な、拠って立つ指針がないわけですから。
このように、「明確な構造」がない職場では、心理的安全性が高い状態にはなりえないのです。
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