イオン、「WAONと共通ID」で狙う経済圏戦略の全貌 アプリ決済も導入、小売りデータを有効活用 

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今後はこうしたデータの統合を進め、iAEONアプリを通じて消費者に合わせたクーポンや商品・サービス情報を配信するという。例えば子どもができた際にはベビー用品のクーポンを配布したり、イオン銀行の子ども用口座や、生命保険の見直し情報などを配信したりするといったイメージだ。

ただ、こちらも容易ではなさそう。イオンのグループ企業の幹部は「システムやアプリを各事業会社が独立して開発しているため、システム統合はかなり大変」と明かす。

実際、複数のグループ企業がiAEONアプリと並行して、自社アプリも使用し続けている。というのもiAEONアプリがまだ開発途上のため、自社アプリに装備している機能が使えなくなってしまうことを懸念しているからだ。

現在、イオン傘下のシステム開発会社であるイオンアイビスが機能の拡充や利便性の向上を進めているが、グループ企業のアプリにはイオンアイビスが開発に関わっていないものも多数存在しているため、開発の難度は高いという。

どこまで利用店を増やせるかがカギ

ポイントやIDを軸に顧客を囲い込む戦略には強力な先行者がいる。楽天だ。楽天市場をはじめ、トラベルや銀行や証券、保険に至るまで生活に必要な70以上のサービスと1億を超えるIDを武器に国内で1.6兆円もの売上高を誇り、「楽天経済圏」と呼ばれている。

そうした楽天に対し、イオンは「イオン生活圏」を標榜、リアル店舗の多さを強みに掲げる。日常的な買い物に使われるため接触機会が多く、ポイントやIDの利用頻度が高いため顧客を囲い込みやすいのが強みというのだ。

イオン銀行の店舗
イオン銀行の店舗。イオンは全国にさまざまなジャンルのリアル店舗を展開しており、グループで共通のIDやポイントを使えるメリットを消費者に訴求している(写真:イオン)

確かにイオンはすでに全国に店舗網を築いており、2022年2月期の国内の営業収益は7兆9913億円を誇る。そればかりかイオン銀行の店舗も37都道府県に145店を展開するなどまさにインフラと化しており、楽天にはない強みと言えよう。

【2023年3月2日17時55分追記:イオン銀行の店舗数について、上記のように修正しました】

ただ、これまで見てきたとおりそれもまだ道半ば。マルエツやカスミなど首都圏地盤の食品スーパーを傘下に持つユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(USMH)や、持ち分法適用会社で関東地盤スーパーのいなげや、提携しているベルクなどでもまだポイントやIDの共通化が完了していない。

さらに現在、ヤマダ電機やスポーツ用品店のアルペン、眼鏡チェーンのJINS、そして外食チェーンの松屋やコロワイドなど、AEON Payが使える加盟店を拡大しているが、「AEON Payはまだ使える場所が少なすぎて、お客さんにメリットが少ない。僕らは従業員だから使っているけど」と前出の幹部は不満を漏らす。

ちなみに楽天ペイは約600万店舗で利用可能。それに対しイオンFSは2025年度までに提携先を400万店まで増やす目標を掲げている。

ポイントや決済機能はいかに多くの場所で使えるかが重要なだけに、今後、イオンがどこまでWAON POINTやAEON Payが使える場所を増やすことができるか、イオン生活圏の成否はそこにかかっている。

中野 大樹 東洋経済 記者

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なかの たいじゅ / Taiju Nakano

大阪府出身。早稲田大学法学部卒。副専攻として同大学でジャーナリズムを修了。学生時代リユース業界専門新聞の「リサイクル通信」・地域メディアの「高田馬場新聞」で、リユース業界や地域の居酒屋を取材。無人島研究会に所属していた。趣味は飲み歩きと読書、アウトドア、離島。コンビニ業界を担当。

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