すかいらーく発祥「ひばりが丘団地」64年経った今 古い団地とベランダはなぜ「保存」されたのか

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実験的な取り組みのほかにもまちづくりの拠点としてストック住宅の活用も行っている。それが、もともと2階建てメゾネットタイプの「テラスハウス」と呼ばれる建築の旧118号棟を活用した「ひばりテラス118」だ。

6戸が入居していたテラスハウスを鉄骨で補強し、階段を一部撤去、6部屋を内部から行き来できるように開口部を新設した。そのうえで、2部屋を1階と2階の吹き抜けにしてカフェに、4部屋を会議室などが入るコミュニティースペースとし、エリアマネジメント団体「一般社団法人 まちにわ ひばりが丘」の拠点となっている。

「テラスハウス」をリノベーションして生まれたコミュニティースペース「ひばり118」。画像右側がカフェ、左側が会議室などのスペースになっている(筆者撮影)

エリアマネジメント組織の設立は、民間事業者による土地活用とセットになったものだ。デベロッパーがエリアマネジメントを行う組織(一般社団法人)を設立し、運営に関わる費用を負担している。

またデベロッパーが分譲したエリアに居住する住民から会費を徴収し、そちらも運営資金にあてられる。そしてエリアマネジメント団体は既存自治会や地域の教育機関や福祉施設、商業施設との連携をはじめとした取り組みでまちの魅力を向上させていくことになっている。

実際、団地・マンション・戸建て分譲住宅が混在するようになると、地域が住戸の種類毎に分断されてしまう恐れがあり、それをなるべく回避するためにエリアマネジメントは有効かもしれない選択肢の1つだ。うまく連携が回るかどうかが、今後のまちの姿や印象を決めるカギとなる。エリアマネジメント団体の設立は2014年。まだ設立から10年弱だ。今後の取り組みに注目である。

新しい商業施設が開業している

ここまでひばりが丘団地の建設からひばりが丘団地を起点にしたイメージの広がりや団地の生活、そして現在のひばりが丘パークヒルズの姿になるまでの変化を見てきた。1960年代に憧れの生活イメージを生み出した場所は、大きく変化した。

住棟は高層化・大型化し、団地センターの商店街はスーパーになった。周辺には「イオンモール東久留米」やスーパー「オーケー」を核にした「フレスポひばりが丘」など時代の流れに合わせた新しい商業施設が開業している。団地内を通るバスも十分にあり、住むにあたっての利便性は高いままだ。

「ひばりが丘パークヒルズ」東側の通りから住棟群を見る(筆者撮影)

また、先述の既存建築の活用のように、過去のものを完全に塗り替えるような再開発だけではなく、しっかりと「歴史」も残した再開発が行われているのもひばりが丘団地からひばりが丘パークヒルズへの変化における大きな特徴だ。

いまのひばりが丘パークヒルズの風景にはひばりが丘団地が与えたような鮮烈な印象はうけないかもしれない。しかし、エリア内をよく見ると、土地の過去をうまく引き継ぎながら、社会や周辺地域の変化に合わせたリニューアルを行い、現在のまちの姿ができていることがわかる。その様子を見て歩けば、また違った団地のイメージが見えてくるに違いない。

鳴海 侑 まち探訪家

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なるみ ゆう / Yu Narumi

1990年、神奈川県生まれ。大学卒業後は交通事業者やコンサルタントの勤務等を経て現職。「特徴のないまちはない」をモットーに、全国各地の「まち」を巡る。これまで全国650以上の市町村を訪問済み。「まち」をキーワードに、ライティングをはじめとしたさまざまな活動を行っている。最新の活動についてはホームページ(https://www.naru.me/)やX(旧・Twitter、https://twitter.com/mistp0uffer)で配信中。

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