六角精児60歳、「芝居に興味がなかった」末の今 「自分がどう見えるかなんて興味ないですから」

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六角:その頃、何だか誰からも必要とされてない気がしていたんですね。劇団も大変な時期でしたが、長い年月の中で、自分の位置みたいなものがどんどん新しい人に奪われていくように感じて、お客さんの目線もその人たちに向かっている気がしてしまう。そんな時期と重なっていましたね。たぶん辛かったんだろうけど、その辛さを頭がまともに考えないで、ギャンブルにすり変えていたのかもしれない。

僕は人よりいい経験をしているんだと思う

── その時期に感じていた“快感”というのは?

六角:誰しも上昇志向はあると思うんだけど、人間ってそれだけじゃないんですよね。自分の中には、沈んでいく気持ち良さとか、なんかダメになっていく安心感だとかに魅力を感じる部分があります。わりとマイノリティが好きなんですよ。片隅でどうにかやっているものに憧れがあって、それを自分の中に置いている。パチプロの人たちと過ごして、先は不安だけどそれはそれで心地がいいと、そんな時期が2年間くらいありました。あの日々の焦燥感みたいなものも、不思議なドーパミンを出してたんだろうな。

でも同じ状況にはもうなれませんし、もう今では味わえないことです。あれを味わったってことは、僕は人よりいい経験をしているんだと思います。

── その状態からどうやって浮上したんですか。何かきっかけはあったのでしょうか。

六角:何もないんです、周囲の人の力ですよ。僕は自分で勝手に躓いたと思っていますが、その時に助けようとお金を貸してくれても、またギャンブルに消えるだけです。だけど、周りの人は仕事を与えてくれたり、何かの舞台を与えてくれたりした。それで自分で働いて得たお金でちょっとずつ借金を返済して、普通の世界に戻れたんです。

それは事務所のおかげだし、劇団の座長のおかげだし、それから、もしかしたらその時一緒にいた女性のおかげかもしれないし。母親はうんと僕に厳しくしたけど、それがなかったら、高校時代に会えた人たちに会えてなかったし。僕は人に恵まれているんです。

※後編に続きます。

文/木村千鶴 写真/平郡政宏 スタイリング/秋山貴紀
ヘアメイク/西村佳苗子 編集/森本 泉(LEON.JP)

六角精児(ろっかく・せいじ)
1962年6月24日生まれ、兵庫県出身。身長175cm。劇団「善人会議(現・扉座)」の創立メンバーとして主な劇団公演に参加。近年の出演作は舞台「怪人と探偵」(19年)、「レ・ミゼラブル」(21年)、「衛生 リズム&バキューム」(21年)、ドラマではNHK連続テレビ小説「おちょやん」(21年)、「拾われた男」(NHK21年)、「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日・22年)などで名バイプレイヤーとして活躍。最近では「エルピス-希望、あるいは災い-」(KTV・22年)も話題に。映画は「相棒シリーズ 鑑識・米沢守の事件簿」(09年)で初主演。近年は「くらやみ祭の小川さん」(19年)、「すばらしき世界」(21年)などに出演し、22年は「大怪獣のあとしまつ」、「ウェディング・ハイ」、「ハケンアニメ!」、「コンビニエンス・ストーリー」、「ある役者たちの風景」と5本の出演作が公開された。また六角精児バンドを結成し、2枚のCDをリリース。22年4月には初のソロアルバム「人は人を救えない」をリリース。現在公開中の映画「仕掛人・藤枝梅安」に出演。4月には舞台「ザ・ミュージック・マン」(日生劇場ほか)の公演が控えている。
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