地方創生の限界は、いったいどこにあるのか 自治体問題の権威が安倍政権の政策に警鐘

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「シャッター通り」は地方衰退の象徴だ(写真:うげい/Imasia)

2010年の内閣府調査によれば、非正規雇用の20~30代男性の既婚率は6%に満たない。非正規雇用は、量的には地方というより東京・大阪など大都市圏の問題であり、ここにメスを入れずして少子化問題は乗り越えられない。少子化を解決するには、「地方創生」ではなく、若い人たちを中心とした「都市再生」こそが必要だ。

また、製造業をはじめとする地域経済の衰退は、大企業の海外シフトが契機となった。ここに「平成の大合併」が加わったことで、浜松市の例のように、中核都市の周辺部でも人口減少が加速した。

このような従来型の構造改革政策や国土政策、市町村合併についての根本的なレビュー(振り返り)が必要なのだが、これもなされていない。

――地方創生策の限界はどこにあるのでしょうか。

政策の中心が、「外部からの企業や人の誘致」と「選択と集中」にあることだ。東京に本社を置く、一部のグローバル企業にとってのみメリットがある。

「地方創生」は、規制緩和によって、新たな経済主体がビジネスチャンスを拡大することを意味しており、決して、地域経済を現に担っている既存の中小企業や農家、協同組合の投資力を高めるところに焦点を置いてはいない。だからこそ、「再生」という言葉を使わずに、ゼロからの出発を意味する「創生」という言葉をあえて使っている。

自治体と住民とでの問題意識の共有が重要

しかし、地域からの視点からみると、たとえば一時的に域外から企業が進出して売り上げが増えたとしても、その所得が域外に流出したり、撤退したりすると、地域経済の持続的発展は失われてしまう。何よりも、地域の住民の所得や生活の向上に結び付く可能性は低い。

地域を持続的に発展させるには、自治体と住民が問題意識を共有し、協同して、地域内で再投資できる仕組みを作らなければ。

カギとなるのは、地域に根差し、地域経済の圧倒的部分を担う中小企業群であり、農家や協同組合だ。外から企業を誘致するにしても、地域内から商品やサービス、雇用を調達してもらうことが重要だ。

国がトップダウン的に進める「地方創生」ではなく、地方自治体が地域の住民や企業ととともに自らの自治体の目標を掲げ、それに向けた取り組みを国が黒子役としてサポートするボトムアップ型の「地域再生」こそ、大都市でも農村でも求められていると言える。

前野 裕香 ライター

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まえの ゆか / Yuka Maeno

1984年生まれ。2008年に東洋経済新報社に入社し記者・編集者として活動した。2017年にスタートアップ企業に移り、広報やコンテンツ制作に従事。現在はフリーランスライターとしても活動中。

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