地方創生の限界は、いったいどこにあるのか 自治体問題の権威が安倍政権の政策に警鐘

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岡田知弘(おかだ ともひろ)●1954年7月生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。京都大学経済学部助教授などを経て1996年より現職。日本地域経済学会会長、自治体問題研究所理事長。京都大学教授

――このタイミングでレポートを出した狙いがあったと思いますか。

安倍首相の政策を後押しするためで、狙いは大きく2つあった。

ひとつは、増田レポート発表の1週間後、5月15日に発足した第31次地方制度調査会における雰囲気づくりだ。第1回総会で自治体が消滅する可能性を視野に入れた地方制度のあり方について諮問がなされた。

ある委員からは「道州制を見据えた議論を展開すべきではないか」との提言が出て、畔柳信雄会長は「自然に道州制の議論にもなる」と記者に答えた。ちなみに、畔柳氏は、経団連の道州制推進委員会委員長でもある。同調査会の答申を準備する専門小委員会では増田レポートが配布されて、それを前提にした議論が進められている。

「選択と集中」政策を進める狙いも?

もうひとつは、国土交通省で策定中だった「国土のグランドデザイン2050」の情勢認識の前提にすること。今年度から開始される国土形成計画の見直しの基本枠組みとなる社会資本投資の「選択と集中」政策を進めたかったのだ。昨年7月4日に決定された文書からは、人口30万人規模の「高次地方都市連合」の形成や、集落再編の手段として「小さな拠点」構想が盛り込まれたことがわかる。

なお、経済財政諮問会議の「骨太の方針2014」(2014年6月24日に閣議決定)でも、地方創生本部(まち・ひと・しごと創生本部)の設置など、増田レポートを前提とした政策が示された。

増田氏は、『日経グローカル246号(6月16日発行)』のインタビューの中で、「政権が毎年のように替わっているときに(推計を)出しても意味がなく、安定している今がチャンスだと思った」と明かしている。発表直後に、安倍首相にもじかに説明したということだ。

――増田レポートが示した「消滅可能性都市」の予測は妥当なのでしょうか。

データ分析の方法に問題があるため、妥当とは言えない。

まず、このシミュレーションが、「東京への人口の一極集中が続く」という前提に立っていることが問題だ。消滅可能性都市の根拠となっているのは、2005年から2010年にかけての人口移動率から算出した、20~39歳女性の減少率だ。中長期的な人口波動をみると、人口が東京に集中する時期には波がある。シミュレーションをする際は中間値をとるのが普通だが、増田レポートでは最大値がとられている。

次に、東日本大震災(2011年)後に活発になった、若年世代の「田園回帰」の動きについて盛り込まれていない。東日本大震災後の人口移動のトレンドについては、明治大学農学部の小田切徳美教授らが指摘するように(『農山村は消滅しない』岩波新書、2014年)、都心から地方への人の動きがあることが明白になっている。

一部の自治体がこれまで取り組んできた主体的な取り組みについても、まったく考慮されていない。過疎地域の中には、移住サポートや医療・教育支援を推進してきた自治体があり、実際に人口増加に転じた複数の自治体があるなど、成果も出ている。こうした主体的な取り組みが、今後増えてくるであろうことが推計要因として勘案されていないのだ。

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