地方創生の限界は、いったいどこにあるのか 自治体問題の権威が安倍政権の政策に警鐘
――この分析だけで、自治体消滅の可能性を言うには無理がある、と。
そもそも、20~39歳女性が半減するという推計だけを基に、自治体の「消滅」を言うのはおかしい。当然だが、自治体を構成しているのは、若い女性だけではなく、ほかの年齢層の女性や男性もいる。
無理な推計を基にするから、「東京都豊島区が消滅する」などという、笑い話のような結果が出てくるのだ。自治体は、住民の代表である首長や議会が、合併などで自治権を返上しないかぎり、消滅することはない。そこに論理的な飛躍、あるいは政策的な意図を見る必要がある。
一方で、メディアに注目されるのはデータ分析の手法ではなく、自治体の半数が消滅する可能性がある、というデータそのもの。非常にうまい見せ方だが、この推計を基に政策や世論が構築されていくことは危険だ。
安倍政権が目指すものとは
――増田レポートを前提とした地方創生策が動き出しています。安倍政権がこの先何を目指しているのでしょうか。
今回の交付金は、一時的な“アメ”にすぎない。短期的に見れば統一地方選対策とも言える。ただ、中期財政見通しの見直しが必要となっており、次の参議院選挙が終われば、交付金を大幅削減するべきとの議論が出始めるだろう。
安倍首相がその先に見据えているのは「道州制」の導入だ。現行の都道府県制を廃止し、10程度の州と州都を置き、基礎自治体も人口30万人程度に大きくくくり直そうというものだ。国は外交、軍事と通商政策、州政府は経済開発や公共事業、高等教育政策、基礎自治体は住民の生活に近い初等教育や医療、福祉を担うという「役割分担」を図るのが狙いだ。今、沖縄県の辺野古で起こっている問題からわかるように、外交・軍事については国の専権事項にしたいということだ。
先の総選挙の際に策定された自民党の「政権公約2014」には、こんな文言があった。「道州制の導入に向けて、国民的合意を得ながら進めて参ります。導入までの間は、地方創生の視点に立ち、国、都道府県、市町村の役割分担を整理し、住民にいちばん身近な基礎自治体(市町村)の機能強化を図ります」。こう明記していることからも、道州制導入までの間のつなぎとして地方創生を位置付けていることがわかる。
――道州制について、安倍首相の思いは強そうですね。
道州制について首相は、第1次安倍政権時代から、強い意欲を示してきた。石破茂・地方創生担当大臣は、国家戦略特別区担当でもあり、道州制の実現について検討するよう首相から指示されている。
だが、地方の自治体の反発があるので、簡単にはいかないこともわかっている。小泉純一郎内閣期に「アメとムチ」の政策で強引に行った「平成の大合併」がうまくいかなかったことで、地方の小さな基礎自治体や県は、道州制を警戒している。
だから安倍首相は、「行政の選択と集中をしなければ生き残れない」という雰囲気をつくり、中枢都市を中心として30万人都市行政体を地方制度と国土計画の両面から行い、道州制導入の地ならしをしているように思える。増田レポートに基づく地方創生論を展開すれば、自治体の首長や世論が、あきらめ半分で道州制や自治体再編を受け入れるかもしれない、という期待を抱いているのだ。
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