地方創生の限界は、いったいどこにあるのか 自治体問題の権威が安倍政権の政策に警鐘

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合併後も人口減に歯止めが効かない浜松市(写真:yoshikazu / Imasia)

まずは人口30万人圏の都市を軸に、社会資本を整備・集約しようとしている。昨年度、総務省は兵庫県姫路市や岡山県倉敷市など9自治体を「地方中枢拠点都市」のモデルにしたが、これを今年度には60都市に拡張する予定だという。

今年に入り、総務省の「地方中枢拠点都市」と国土交通省の「高次地方都市連合」構想を、「連携中枢都市圏」に一本化することになった。行政サービスの広域連携を推進するものであり、75万人の圏域人口を抱える拠点都市には2億円を交付するという財政誘導付きだ。周辺地域の自治体は「見えない合併」になるのではないかと警戒している。

2005年の合併後も人口減少の浜松市

――「平成の大合併」の弊害は大きかったのでしょうか。

典型は、総務省の中枢拠点都市のモデルとされた静岡県浜松市だ。

静岡県静岡市との都市間競争のなかで政令市になるため、2005年に合併し、1511平方キロメートルの広大な面積をもつ基礎自治体となったが、2009年から人口が減少し続けている。都心部の中区と北部の天竜区で人口減少幅が大きい。中区の人口減少は、ヤマハ発動機など大手メーカーの工場閉鎖や縮小、顧客の減少による中心商店街の空洞化が主因だ。

市北部の天竜区は2005年に5市町村が合併した、944平方キロメートルの広大な区。旧市町村のうち龍山地区はかつて林業で栄えていたが、合併後の9年間で人口が3割以上減った。

広域合併すると、役場が出張所となり、行財政権限がなくなり、職員数も激減する。地域の最大の投資主体が消滅することになり、地域産業振興も住民の福祉サービスも低下し、住民が住み続けることが困難になるからだ。これは、広域合併自治体で共通したことであり、市町村合併を唱導した西尾勝東大名誉教授でさえ、参議院の「国の統治機構に関する調査会」の参考人質疑(2015年3月4日)において「平成の大合併は大失敗」だと認めざるをえなかった。

合併した市区町村への地方交付金は合併特例によって10年間は増えるように見えるが、それ以後は減額され、15年後には合併しない場合よりも減少する仕組みだった。こうなると、事前に職員削減をしなければならず、人口の少ない地域には産業や福祉担当の職員を置くことができない。

東日本大震災や、広島県広島市の土砂災害でも市町村合併の弊害が出た。かつての町村役場の職員は地域の実情や住民の状態をよくわかっていた。だが合併して、支所や出張所になったことで、職員がごく少数の窓口業務が主体となり、地域の実情がわからず、災害対応が遅れたり、有効な判断が現場でできなくなったりした。

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