「MARCH」と大学を括る人が知らない偏差値の本質 茂木氏の問題提起から偏差値の扱いを考える

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そのあたりの認識不足によって、選択科目間の得点調整では微妙な問題が表面化することがある。たとえば、数学と社会が同じ平均60点の試験で、両方とも100点をとっても、数学の標準偏差が20点で、社会の標準偏差が10点の場合、偏差値としては次のようになる。

数学の100点の偏差値=(100-60)÷20×10+50=70
 社会の100点の偏差値=(100-60)÷10×10+50=90

とくに、私立大学文系学部入試では、数学と社会が選択科目となっているところが多く、数学を選択した受験生が合格し難い現象がしばしば見られる。筆者が知る某私立大学経済学部では、この現象を重く捉えて、選択科目間同士の偏差値による得点調整を止めたのである。

また、特異なデータによっては、偏差値が100を超えるような珍現象も起こる(同拙著で問題として例示)。これも、偏差値の定義式をよく理解するからこそ気づくことである。

さて、早稲田大学政経学部は2021年度入試から、政経学部一般入試で数学を必須科目にしたことは広く知られている。また最近になって、「文部科学省は、大学経済学部の一般入試で数学を課すことを含めた指針を作成」、というマスコミ報道もある。

筆者としては、これによって「私大経済学部では数学は不必要」という日本固有の「迷信」がようやく過去のものになることを期待したい。この迷信が今日まではびこった原因の1つに、「偏差値」というもののカラクリに関する世間一般の理解不足があったと考える。

高校数学のカリキュラムの問題点

最近、政府はデジタル分野の人材を育成するため、「2024年度にも東京23区内の大学の定員増を、デジタル系の学部・学科に限り認める方針を固めた」ということが大々的に報道されている。その中核をなすのは、いわゆる「データサイエンス」であろう。当然、基礎としての数学の学びに関して注目されることになる。これに関しても、「偏差値」について上述したように深い視点から考えてみると、指摘したい2つの課題がある。以下順に述べよう。

なお、戦後の中学数学や高校数学で扱った全事項を含め、さらに大学数学入門としての微分積分や線形代数までを、大河が滔々と流れるように生きた応用例を交えて一本にまとめた拙著のシリーズ『新体系・中学数学の教科書(上下)』、『新体系・高校数学の教科書(上下)』、『新体系・大学数学入門の教科書(上下)』(ともに講談社ブルーバックス)を、僭越ながら参考にさせていただく。

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