ウクライナ侵攻、知られざる「文化財」破壊の深刻 この1年で240カ所が被害、保護は時間との戦い

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ユネスコは戦争によって破壊された遺産を修復する支援のために2017年に設立された紛争地域における遺産の保護のための国際同盟(ALIPH)と連携している。

ロシアによるウクライナ侵攻の数日後、ALIPHが博物館や図書館などの文化施設に対して金属製の箱と気泡緩衝材を送り、作品を梱包した結果、キーウへの昨年10月のロシアの空爆でも約2万5000点に及ぶ作品が生き残ったことが報告された。ただ、昨年12月以降の冬の寒さと暖房なしの低温状態が作品を危険にさらしていると指摘されている。寒冷地の武力紛争は経験が浅く、文化財保護に新たな課題を突き付けている。

国外退避も進めている

寒さが作品保存を不可能にする中、国外への退避が行われている。11月中旬にはキーウのウクライナ国立美術館から約70点の絵画が、スペイン・マドリッドのティッセン・ボルネミッサ美術館に移され、芸術家ウラジミール・バラノフ・ロッシネの作品「アダムとイブ」が展示中だ。当時、キーウ近郊は空爆され、作品の移動にはさまざまな困難があったことをスペイン側のキュレーターは証言している。そのほか、ドイツのケルンに退避した例もある。

フランスの専門家は、この種の戦時下の芸術作品の移動は非常にリスクが高く、つねに作品が略奪の危険にさらされていると言う。すでにこの1年、ウクライナ国内の文化施設から作品が略奪された例は少なくない。ロシアが手中に収めた南東部マリオポリや東部ヘルソン地方民芸博物館からロシア軍が10万点以上の作品や文化財を持ち出したとされている。

ユネスコの目標は、紛争の終結後に略奪された美術品がウクライナの機関に返還されるようにすることにある。そのためには戦時中の文化財の保護に関するハーグ条約で規定されている措置である目録の作成が急務とされている。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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