ウクライナ侵攻、知られざる「文化財」破壊の深刻 この1年で240カ所が被害、保護は時間との戦い

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ユネスコが緊急登録した背景には、戦争による破壊の脅威にさらされている「黒海の真珠」と呼ばれたオデーサの遺産を保護する目的があった。ロシアがオデーサを破壊すれば、世界遺産を破壊したことになるので、ロシアの攻撃を思いとどまらせることに少しでも役に立てばという姿勢の表れでもある。

ユネスコのスポークスパーソンによると「オデーサの町中心部が世界遺産に登録されたことにより、追加の法的保護が提供される」。これは「すべての加盟国がこの場所を保護するために可能な限りの支援を行うことを約束することを意味する。加盟国には国際社会に対して法的義務がある」と説明している。

ロシアは「世界遺産」の破壊を避けている?

ユネスコは、「国連の衛生写真分析機関と協力して監視・分析しており、2月中旬時点で世界遺産に登録されている8つのウクライナの遺跡(オデーサの今回登録された町中心部を除く)のいずれも被害を受けていないことを確認した」としている。ロシアのウラジミール・プーチン大統領の心理は読めないが、世界遺産への破壊行為を避けている可能性もある。

文化に敏感なロシアにとって、世界遺産破壊は2001年3月、タリバンが世界文化遺産のアフガニスタンのバーミヤンの大仏を破壊したり、2015年にはイラク北部で歴史遺産に登録された古代都市の遺跡がイスラム国(IS)によって破壊されたりしたことで、世界がイスラム過激派に厳しい目が向いたことも念頭にあるかもしれない。

フランスメディアの報道によれば、ユネスコはキーウにウクライナの文化遺産を保護するためにイタリア人の専門家、キアラ・デッツィ・バルデスキ氏を代表として送り込んでいるという。彼女は「われわれは生きるために文化を必要としている」「われわれは莫大な遺産を失う深刻な危険に直面している。今こそ介入するときだ」とフランス・テレビジョンの取材に答えている。

彼女は、空爆によって屋根ガラスが破壊されたオデーサ美術館の修復を含む全国の文化施設に対して、ユネスコの資金を使った応急修復作業の監督と調査も行っている。ただ、これらの修復は作品を守るための一時的措置にすぎず、大規模な空爆を受けた場合は守りきれないことも認めている。バルデスキ氏はウクライナ各地では毎日、空爆の危険を知らせるサイレンが鳴り響いていると証言している。

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