自分に適した仕事がないと思ったら読む本 落ちこぼれの就職・転職術 福沢徹三著
今や年収200万円以下の給与所得者は、1000万人を超える。著者は、賃金格差が拡大する理由を、能力でも労働時間でもなく、単に「入った企業の差」と断言。しかも、有名大学の新卒者であればともかく、「落ちこぼれ」は小手先の技術や知識だけでは企業に入ることすらままならない。
こんな時代ではやる気が出なくて当たり前だと、著者は格差社会を憂う。
本書で言う「落ちこぼれ」とは、意欲がなく就職しなかった人、意欲はあっても就職できなかった人、あるいは就職したもののうまくいかずに退職した人--いわゆる就職に落ちこぼれた人たちをさす。
著者も、高校卒業後、営業、飲食、アパレル、コピーライター、デザイナーなど20種以上の職業を経て怪談小説作家となった自称「落ちこぼれ」。作家業のかたわら専門学校講師として学生の進路指導にも携わっている。本書には、そんな著者の特異な経歴がフルに活かされた、「落ちこぼれ」ならではの「落ちこぼれ」のための就職・転職アドバイスが綴られているのだ。
例えば、だめな企業ほど求人する、受注側はお辞儀の数が増えるなど、社会人にとっては周知の事実でありながらも、一般的な企業研究や業界研究では見えてこない現実について経験を交えながら解説。美辞麗句を並べたてて採用募集を行う企業や、不条理な社会構造を批判しているかのようでもある。
もちろん、「落ちこぼれ」に同情するだけではない。適職信仰は時間の無駄であり、企業がどうなろうと自分でやっていけるだけの力を身につけることが大切だという一貫した主張が根底に流れているのだ。
求人していない企業にも応募しろ、資料請求や履歴書には手紙をそえろといった正攻法ではないアプローチを伝授し、小手先のマニュアルにとらわれ尻込みしている就活生たちを叱咤激励する。
中でも著者のアドバイスにより、大卒を押しのけて内定を勝ち取った劣等専門学校生のエピソードは説得力があるだろう。自分の頭で考えて積極的に行動することの重要性や、人生は自分次第という強烈な教訓が伝わってくる。
「時間を守る、嘘をつかない、ひとの陰口をいわない、恩を着せない、常に相手の立場で考える」と、職場で失敗しないための原則にもふれている。本書はリーマンショック以前の売り手市場の時期に書かれたものであるが、決して足元の状況を楽観視せず、普遍的な社会人としての心構えを丁寧に説いているのも特徴の1つだ。
2011年3月18日、厚生労働省と文部科学省は、今春卒業予定の大学生の就職内定率は77.4%と発表した。今回の大震災の影響により、意欲のある大卒者ですらますます「落ちこぼれ」ていく可能性がある。
本書は、今まさに悩める就活生に必要とされる一冊なのかもしれない。採用側も、混迷の時こそ埋もれた人材を発掘するチャンスだ。採用基準や研修内容を見直すヒントが隠されているかもしれない。
幻冬舎新書 756円
(フリーライター:佐藤ちひろ =東洋経済HRオンライン)
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