松平家が代々「強力な家臣団」を率いた背景事情 歴代当主に継承されてきた3つの大切な要素

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三奉行とは、高力与左衛門尉清長・本多作左衛門重次・天野三郎兵衛康景のことである。彼ら3人は「仏の高力・鬼の作左・そのどちらでもない天野三兵」と謳われたことで知られている。家臣の個性を見抜き、それをうまく配置したとして三河三奉行制は、家康の眼力を示すものとも言われてきた。

ところが、この三河三奉行については、後世の編纂物でしか確認できず、しかもその根拠とされる史料の1つ(永禄11年=1568年12月の禁制)に「濫妨・狼藉」や「山林・竹木の伐採」「押し買い」などを禁ずるとした文言の後に、彼らの名前が連署されているだけである。

「三河三奉行」はなかった?

翌年(1569年)3月にも同内容の禁制が出されているが、これだけでもって三河三奉行制なるものが誕生していたとするには、根拠が弱いであろう。

同じ時期には、植村氏や天野氏・大須賀氏などが連署した文書も発給されており、奉行人が高力・本多・天野の3氏のみであったとすることはできない。根拠となる新たな史料が続々と発見されたら、話は別だが、現時点においては、三河三奉行は幻想の産物であったと言えよう。

濱田 浩一郎 歴史学者、作家、評論家

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はまだ こういちろう / Koichiro Hamada

1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『あの名将たちの狂気の謎』(KADOKAWA)、『北条義時』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)など著書多数

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