中国の「自国産業保護」、日本が向き合う5大課題 官民間の人材面を含めた連携強化が焦眉の課題

✎ 1〜 ✎ 30 ✎ 31 ✎ 32 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

日本政府は国を挙げた対応を

日本政府は企業と連携・役割分担しながら前面に出て、企業を守り、中国に向き合わねばならない。中国は国を挙げて「安全」を盾に特定の領域で政策的な外資の排除を始めているからである。筆者の意見を交えて5点挙げたい。

まず、政府は、生産拠点移転のための企業への経済的支援や、不透明・差別的な経済政策の是正を求める申し入れといった既存の取り組みを一層強化しなければならない。日中ハイレベル経済対話や中国日本商会の白書等を使った中国側への働きかけは、官民でより連携し、強化して行われる必要がある。

第2に、官民のより緊密な連携のため、政府・企業間での人材登用が欠かせない。アメリカの官民「リボルビングドア」と同様、中国は人材が共産党のネットワークで動き、企業と政府との間で流動的な人材移動が行われている。日中両国の政府と企業との関係は根本的に異なるが、人材面を含めた政府と企業との間の緊密な連携がなければ中国に太刀打ちは難しい。

第3に、改善されない場合を見据えて、日本企業を守るという観点から、技術移転を強制する特定国に対する輸出管理等、技術流出の防止策を検討する必要がある。新幹線技術のように、中国への技術移転により世界市場を奪われるといった経験を繰り返すべきではない。状況に応じて関連部品や産業に対して柔軟に輸出管理を行えるような体制の検討を始めておく必要がある。

第4に、同様に中長期的かつ経済活動の公平性の観点から、日本企業が政府調達へのアクセスを制限されている国に対して、同国企業による日本の政府調達へのアクセスを限定できる措置の検討が求められる。この点、昨年8月に発効したEUの国際調達規制(International Procurement Instrument)が参考となる。同措置は、域外国がEU企業による政府調達へのアクセスを十分に認めない場合には、当該域外国企業によるEU側の政府調達へのアクセスを認めないことを可能にする。

第5に、CPTPP加盟交渉の戦略的な利用が不可欠だ。CPTPPは、政府調達における公平性や透明性、適用範囲の拡大といった高い要求水準を設けている。それ以外の分野でもWTO協定以上の内容を多く含み、中国の参加ハードルは相当高い。

中国のCPTPP加盟交渉を認めたうえで、交渉過程において中国の差別的な産業政策を徹底的に取り上げて改善を迫り、例外を容易に認めず、約束の実現可能性を厳しく検証するのが現実的である。中国の体制内には、CPTPPをWTOに続く第2の外圧として利用し、国内の改革を進めたい勢力もある。これら勢力に呼応することが、日本政府・企業にとっても有意義である。

(町田穂高/地経学研究所主任客員研究員)

画像をクリックすると連載記事一覧にジャンプします
地経学ブリーフィング

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事