中国の「自国産業保護」、日本が向き合う5大課題 官民間の人材面を含めた連携強化が焦眉の課題

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日本政府は国を挙げた対応を

日本政府は企業と連携・役割分担しながら前面に出て、企業を守り、中国に向き合わねばならない。中国は国を挙げて「安全」を盾に特定の領域で政策的な外資の排除を始めているからである。筆者の意見を交えて5点挙げたい。

まず、政府は、生産拠点移転のための企業への経済的支援や、不透明・差別的な経済政策の是正を求める申し入れといった既存の取り組みを一層強化しなければならない。日中ハイレベル経済対話や中国日本商会の白書等を使った中国側への働きかけは、官民でより連携し、強化して行われる必要がある。

第2に、官民のより緊密な連携のため、政府・企業間での人材登用が欠かせない。アメリカの官民「リボルビングドア」と同様、中国は人材が共産党のネットワークで動き、企業と政府との間で流動的な人材移動が行われている。日中両国の政府と企業との関係は根本的に異なるが、人材面を含めた政府と企業との間の緊密な連携がなければ中国に太刀打ちは難しい。

第3に、改善されない場合を見据えて、日本企業を守るという観点から、技術移転を強制する特定国に対する輸出管理等、技術流出の防止策を検討する必要がある。新幹線技術のように、中国への技術移転により世界市場を奪われるといった経験を繰り返すべきではない。状況に応じて関連部品や産業に対して柔軟に輸出管理を行えるような体制の検討を始めておく必要がある。

第4に、同様に中長期的かつ経済活動の公平性の観点から、日本企業が政府調達へのアクセスを制限されている国に対して、同国企業による日本の政府調達へのアクセスを限定できる措置の検討が求められる。この点、昨年8月に発効したEUの国際調達規制(International Procurement Instrument)が参考となる。同措置は、域外国がEU企業による政府調達へのアクセスを十分に認めない場合には、当該域外国企業によるEU側の政府調達へのアクセスを認めないことを可能にする。

第5に、CPTPP加盟交渉の戦略的な利用が不可欠だ。CPTPPは、政府調達における公平性や透明性、適用範囲の拡大といった高い要求水準を設けている。それ以外の分野でもWTO協定以上の内容を多く含み、中国の参加ハードルは相当高い。

中国のCPTPP加盟交渉を認めたうえで、交渉過程において中国の差別的な産業政策を徹底的に取り上げて改善を迫り、例外を容易に認めず、約束の実現可能性を厳しく検証するのが現実的である。中国の体制内には、CPTPPをWTOに続く第2の外圧として利用し、国内の改革を進めたい勢力もある。これら勢力に呼応することが、日本政府・企業にとっても有意義である。

(町田穂高/地経学研究所主任客員研究員)

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