音楽業界、サブスク時代で激変する収益モデル 著名アーティストも、人気の維持にはひと苦労
1990年代や2000年代など、CDが音楽業界の中心だった時代は、売上枚数が最も重要な指標だった。そのため、「発売日までにどれだけ盛り上げられるか」が勝負どころだった。
ところが、CDは98年の生産金額5878億円をピークに減少し、21年には1232億円まで縮小した。ダウンロードも同様に縮小傾向が続く。一方、国内で15年に本格始動したサブスクは21年に743億円まで拡大している。
サブスクの場合、サービスの規模などにもよるが、CDやダウンロードと比べて1曲当たりの使用料は低くなる。アーティストや作家が稼ぐためには、楽曲を長く聴き続けてもらい、再生回数を積み重ねる必要がある。
ただし、数千万曲をそろえるサブスクの競争環境は厳しく、優れた楽曲でも埋もれがちだ。
そこで、アーティストは音楽番組への出演をはじめ、SNSで自ら情報発信をしたり、一発撮りのユーチューブチャンネル「THE FIRST TAKE」でパフォーマンスを披露したりするなど、発売後も話題を提供し続ける努力が必要になってくる。
多くのファンを抱えるベテランアーティストでも、ファンの年齢層が高く、情報発信も弱ければ、再生回数は伸ばせない。「誰もが知るアーティストも、人気を維持することは本当に大変」(レコード会社関係者)なのだ。
世界でヒットの商機も
しかし、業界の変化はデメリットばかりではない。サブスクによって、ファンは無数の楽曲を聴くことができるようになった。世界中の音楽ファンも日本のアーティストの楽曲を聴くことができるなど、音楽との出合いの場は格段に広がっている。タイアップも従来のテレビや映画に加えて、ネットフリックスなどの動画配信が存在感を増している。
実際、映画『ワンピース フィルム レッド』の主題歌である「新時代」(Ado)は22年、アップルミュージックのデイリーチャート1位にランクインするなど、世界中で注目された。
また、アーティストとファンの双方でユーチューブやTikTokなどの活用も定着している。例えば20年には「香水」(瑛人)が、22年も「W/X/Y」(Tani Yuuki)がTikTokを起点にヒットした。
両方とも、リリースから半年以上の時間を経て注目された楽曲だ。若いファンが楽曲を用いて投稿し、流行を生み出すケースが増えており、TikTokは今やヒットの導火線だ。音楽業界のあり方を根本的に変えつつある。
音楽ライブもアーティストの活動には欠かせない。毎年市場を拡大し、19年には3665億円(コンサートプロモーターズ協会調査)まで成長を遂げた。
ライブはチケットだけでなく、グッズの売り上げも活動を支える重要な収入源になっている。コロナ禍ではほぼすべてのライブが中止に追い込まれたが、22年以降は徐々に再開され、正常化へ向かいつつある。
スマホやSNS、動画配信の台頭などで「娯楽の多様化」が進む中、現在の音楽業界に90年代のような存在感はない。しかし、ファンはCDを購入するだけでなく、幅広く音楽を楽しんでいるのも事実だろう。
さまざまな場所に広がる商機を、楽曲の購入(所有)や利用、体験に結び付けられるか。これこそ現在の音楽シーンでもうけるうえでの重要ポイントだ。
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