「現金ばらまき」では少子化解消されない実態 「優等生」スウェーデンでさえ出生率は低下
なぜなら、出生率を上げる方策は非常に限られているからだ。より多くの子どもをつくるよう促す政策のほとんどは多額の経費を必要としながらも、たいていは限定的な効果しかもたらさない。こうした政策には、出産に対する現金給付のインセンティブや育児休業の拡充、保育の無償化や補助金の支給といったものが含まれる。
専門家らは、最も効果的な少子化対策とは、社会福祉、雇用、およびそれらの根底にある経済問題に対処することだと指摘する。フランス、ドイツのほか、スウェーデンやデンマークのような北欧の国々は、保育の公費負担や育児休業の拡充といった政策を通じて、出生率低下の食い止めでかなりの成果を上げている。
スウェーデンも過去10年は下落トレンド
ところが、このような成功例であっても効果はたかが知れている。出生率を人口維持に必要な2.1の人口置換水準に安定的に回復できた国は存在しないからだ(アメリカの出生率は1970年代に2.1を下回った後、徐々に回復。2007年までに2.1に回復したものの、リーマンショック後に再び急落し、現在は1.7を下回る水準となっている)。
スウェーデンは政府の政策で出生率を引き上げた経験があることから、少子化対策の模範とされることが多い。1970年代に9カ月の育児休業、続いて1980年に「スピードプレミアム」と呼ばれる一定期間に複数の子どもをもうけるよう促すインセンティブが導入されたことを受けて、約1.6まで低下していた出生率は1990年までに人口置換水準の2.1を若干上回るレベルでピークを迎えた(その後、同国の育児休業は世界最高水準の16カ月に延長された)。
ところが、このように上昇したスウェーデンの出生率は1990年代を通じて下落した。過去50年にわたる同国の出生率の推移を見ると、おおむね景気の波と連動する形で激しく上下してきたことがわかる。確かにスウェーデンの出生率は先進国としては依然として屈指の水準にあるとはいえ、過去10年はほとんどの先進国と同様に下落トレンドをたどっている。
最近の研究によると、スウェーデンの出生率の上昇が一時的なものにとどまった理由の1つは、各家庭がすでにつくる予定だった子どもを早くつくるだけの効果しかもたらさなかったこととされる。