今は「金を買う絶好のチャンス」かもしれない 中期では再び1トロイオンス=2000ドル突破へ

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中央銀行がインフレを抑制するために積極的な利上げを進めれば、まず景気が悪化するようになる。金融政策の効果が実際の経済に表れてくるまでには、およそ半年から1年半くらいの時間的な遅れがあるとされている。

企業は金利が上昇し借り入れコストが増加する中で、採用を控えるようになり、雇用の先行きに不透明感が生じ、個人消費が鈍ってくるというのが、景気減速の初期段階で見られる現象だ。

しかし、ここまでの利上げ局面で確かに金利は上昇、住宅ローン金利の急激な上昇を受けて住宅市場は急速に冷え込みつつあるものの、景気自体はそうした中でも比較的堅調に推移しているし、先述のように雇用市場は驚くべき好調さを維持しているのが現状だ。

こうした景気や雇用の好調さは、市場のソフトランディングに対する期待を高める一因にもなっている。だが、そこには何が背景にあるのだろう。

雇用は典型的な景気の遅行指標とされており、利上げの影響が遅れて出てくるものではある。だが、それだけで今回の雇用数が前月比50万人を超える増加となったことを説明するのは難しい。

アメリカの景気は至るところに悪化の兆しが見え始めており、大手IT企業の人員削減も進んでいるが、それでも雇用が増え続けているというのが現状だ。

背景には、やはり新型コロナがあるのだろう。感染は決して収束したわけではなく、企業は現在もなお従業員に感染者が続出した際に一時的な人手不足に陥るというリスクを、抱えたままでの経営を強いられている。

今後も「万が一の事態」を想定すると、必要最低限の水準まで人員を削減することはできない。そのため雇用は慢性的に過剰な状態にある可能性が高いと思われる。

また、感染爆発でサプライチェーンに混乱が生じ、十分な供給を確保できないことが経営の悪化につながったことも、経営者にはトラウマとして残っているようだ。実際、企業在庫は2021年5月以降、前月比での増加が続いており、同年12月以降は前年比で10%を上回った状態となっている。

過剰在庫を抱えることは、経営の効率を考えれば決してよいことではないのだが、サプライチェーンが再び混乱するリスクを考えれば、過剰在庫を継続せざるを得ないというのが、在庫積み増しの背景にあるのは間違いない。

企業が過剰に人員を抱え、万が一に備えた在庫積み増し需要が高止まりを続けているのだから、雇用や景気が思った以上に好調なことも当然の流れということができそうだ。

景気後退懸念が高まれば、金は2000ドルの大台を試す

さて、金市場の見通しに話を戻そう。前述したように、市場がインフレの高止まりやFRBの利上げ継続観測を改めて消化するまでは、売りに押されやすい状態が続くのは避けられない。

しかしながら、その後は「順番」として、やはり景気や雇用の悪化に注目が集まるようになると見てよいだろう。企業が余分に抱え込んだ従業員や在庫のコストに耐えられなくなり、本格的にそれらを整理するようになれば、景気も目に見えて悪化してくるようになる。

そうした中で株価の下落が加速、投資家のリスク回避志向が一段と強まるような格好となれば、今度は安全資産としての金に対する需要が一気に高まってくる可能性は高いと考えられる。

そうした需要がしっかりと相場を押し上げるようになれば、再び前出の高値1970ドル台まで値を回復することも、十分にありうる。景気悪化に伴い、今度こそインフレも急速に低下基調を強めれば、FRBも満を持して利下げに転じることができる。

もし今後FRB高官から「状況次第では利下げを検討する」といったコメントが出てくるようになれば、それこそ一気に2000ドルの大台を上抜けてさらに値を伸ばす展開になることも期待できそうだ。その意味で、今回の金相場急落は、買いの絶好のチャンスになると考えてよさそうだ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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