【後編】優しさを拒絶する7歳彼女の心のケア 「障がい児」だと間違われるのはなぜなのか

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多くの家庭では、テストの点数で100点を目指すのか70点を目指すのかの違いはあるにせよ、親は子へ、よりよい点数がとれるようにがんばり方を教える。そして、努力をすれば褒められる。こうして、勉強が親に認めてもらうための手段として機能する。

しかし、これがない穂乃果さんにとって勉強することに意味はない。だから授業では、ただ座っているだけになってしまう。そして、知的障害が疑われる。

私が穂乃果さんに知的障害がある可能性は低いと判断したのは、小川さんが話してくれた情報が決め手だった。「勉強ができない」「お友達ができない」という情報以外に、知的障害だと判断できる有力な情報がなかった。

もし仮に、知的障害を含む他の発達障害に関係する障害を彼女が抱えていたら、適応機能が同年代の子どもたちとくらべて幼く、言動が稚拙であることによって、社会適応上の問題が広範囲にわたって起きているはずだ。だが、こういった情報は学校からあがってこない。つまり、知的障害の疑いを強める情報は、いくら探しても出てこなかった。逆に、知的障害の疑いを否定する情報のみが出てきた。

以上のことから、穂乃果さんは知的障害などなく、学校での過ごし方がわからないだけだと、私はほぼ結論した。

周囲の大人が親代わりに穂乃果さんをサポート

私は小川さんたちに、穂乃果さんがとった行動の背景には、ここで述べたような心理的な要因があるのだろうとの見解を伝えた。小川さんたちは、よく理解してくれた。

そして、穂乃果さんには、できるだけ多く子ども教室にきてもらったほうがよいと伝えた。家にいても放置されるだけだ。だから事情を理解した大人が、より多くの時間を彼女と過ごせば適応が早くなるだろう。

具体的には、できるだけ一緒に遊ぶようにすればよい。「みんなで縄跳びしているから、仲間に入れてもらいに行こう」「宿題があるなら、一緒にやろう」と声をかけてやる。そしてその都度、感想を返す。「みんなと遊んで楽しかったね」「宿題やってえらいね」など、彼女がとった行動に対して反応する。すると彼女は、次第に人とのつながり方や集団での過ごし方を覚えていくはずだ。なにも教わってこなかった分、もしかしたら吸収が早いかもしれない。

小川さんたちなら大丈夫だろう。しっかりと関わってくれるはずだ。

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