【前編】優しさを拒絶する7歳の彼女が抱える傷 勉強が苦手で友達もいない、その裏にあった事

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中休みの終わりを知らせるチャイムが鳴った。子どもたちは一斉に駆けだして教室を目指した。

穂乃果さんは、その場に取り残された。少しの間を置いて子どもたちを追いかけた。その姿が、必死にひとりぼっちを避けているように私の目には映った。

この日、私が彼女の学校での様子を見に行くことになったのは、やはり学校からの相談がきっかけだった。穂乃果さんは、「問題児ほどではないが気になる子」として名前があがっていた。

校長曰く、教室を歩き回ってしまうことはない、教員の指示を理解できないこともない、お友達とのトラブルもない。だが、強いていうなら「お友達ができない」ことと「勉強ができない」ことが問題としてあがっているという。

これが理由で、担任や巡回相談心理士(臨床心理士や発達心理士などの資格を持つ専門家が学校を巡回し、子どものことで相談に応じる役割を持つ)は、穂乃果さんに知的障害があると考えているらしかった。だから早く、特別支援教育につなげるべきだという意見があるのだと校長は言った。

しかし、実際に校長が穂乃果さんと話してみると、知的障害があるようには感じられなかったらしい。それで、私の意見も参考にしたいとのことだった。

にじみ出る緊張感からわかること

中休みが終わり、授業がはじまろうとしていた。

穂乃果さんは教室の前方に設置してある鏡の前に立っていた。着ているTシャツは、ところどころ薄汚れていた。古くなった染みがいくつもあった。校庭に出て体を動かしたせいで乱れた髪を手でていねいに梳かし、前髪をヘアピンでとめた。

鏡の前にいる穂乃果さんに、私は話しかけた。

「こんにちは、はじめまして。植原といいます。今日は二年一組のみんなの様子を見にこさせてもらいました。次の授業はなんですか?」

「……」

彼女は、なにも答えなかった。

教室の壁に掲げられている時間割表を見て、

「次は、国語なのかな?」と私はたずねた。

「……」

言葉は発さないが、かすかに頷いた。見知らぬ大人にいきなり話しかけられたのだから、緊張しているのだろう。私はなるべく、頷くか、首を振るか、どちらかで答えられるような質問を続けた。

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