【前編】優しさを拒絶する7歳の彼女が抱える傷 勉強が苦手で友達もいない、その裏にあった事
「たしか、1カ月くらい前のことだったと思います。穂乃果ちゃんは、ここにきてもひとりで過ごしていることが多いんです。それで『一緒に○○しよう』と誘うと、誘いに乗るんです。とてもおとなしいというか、受動的というか、そんな印象の子です」
私が穂乃果さんの様子を見て、そして少しだけ会話をしたときの印象と相違ない。彼女は物静かな子のようだ。小川さんの話は、まだ続いている。
「穂乃果ちゃんの髪を見ると、乱れていたんです。それで私が『髪、綺麗に結ってあげるね』と言ったんです。そうしたら私の手を払い除けて、いままでに聞いたことのないような声で、『やめて! 触らないで!』とすごく怒ったんです。『そんなことしないでよ!』と言って、堰を切ったように泣きはじめてしまったんです。あまりに突然のことだったので、驚きました。私がなにか彼女にとって嫌なことをしたのだと思って、ごめんねと言いながら謝ると、『違う、違う』って、泣きながら繰り返していたんです」
愛着障害という心の傷
普段はほとんど話さず無口で、教室のなかでぽつんとしている穂乃果さんが、こんなにはっきりと他人に対して「拒絶」を表明したことはなかった。だから小川さんは驚いた。それは、ほかの職員たちも同じだった。
このような極端に人を避けている様子や、人から差し伸べられるやさしさに対して過剰なまでの拒否感を示す態度があると、やはり私は虐待による心の傷(反応性愛着障害)を疑う。
しかし、学校から虐待の通告が児童相談所や子ども家庭支援センターになされたことはない。つまり、周囲が気づくような目に見える虐待は行われていない。
私が小川さんに、穂乃果さんの家庭の様子を聞こうとしたそのときだった。なにかを思いだしたように、小川さんが再び話しはじめた。
「そういえば以前、穂乃果ちゃんが『妹をお風呂に入れて、髪を洗ってあげるんだ』と、ぽそりと言ったことがあったんです。私は、てっきり妹思いのいいお姉ちゃんだと思って、えらいね、と言ったんです。だけど、そのときの穂乃果ちゃんの顔が、どことなくさみしそうだったことを思いだしました」
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