インドは世界経済の新たなけん引役になれるか 発展長の足かせは根深い官僚主義・汚職・格差

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インド経済の変革が本格化しつつある。

世界の製造業者が中国の次を見据えており、インドのモディ首相はその機会を捉えようと取り組みを強化している。同国政府は今年度予算の20%近くを設備投資に回そうとしており、これは少なくともここ10年で最大だ。

インドはちょうど中国を抜いて人口世界一になったのと見られる。モディ氏は同国が経済面での潜在力をついに発揮しつつあると主張できるようになることに、これまでのどの首相よりも近づいている。ただ、その実現には桁外れの規模ゆえのマイナス点やインドの発展の足かせとなってきた根深いお役所主義や汚職、14億人の民主主義を特徴付ける深刻な格差と闘っていかねばならない。

インドの大手テクノロジーサービス会社インフォシスの創業者、ナンダン・ニレカニ氏は「インドは大きな変わり目にある」と述べ、同国は急速に数万のスタートアップや数十億台のスマートフォンをサポートする能力を生み出していると指摘する。

インフォシスの敷地内(インド・ベンガルール、2022年12月)Photographer: Aparna Jayakumar/Bloomberg

米国と中国の対抗意識が追い風となっている。海外拠点を中国に集中させることのリスクを回避し、中国以外の国・地域に分散投資する戦略「チャイナ・プラスワン」に企業がかじを切る中、インドとベトナムは大きく恩恵を受ける見込みだとサプライチェーンアナリストらは分析する。米アップルの主要サプライヤーである台湾の3社はスマホの生産・輸出拡大に向けモディ政権から優遇措置を獲得。アップルの「iPhone」の出荷は昨年4-12月に2倍余りに伸びた。

インドからのiPhone輸出が倍増の25億ドル強に-過去最高 

中国やドイツなど経済大国の成長が鈍化しつつある中で、世界経済をけん引する新たな国を見つける必要性が高まっている。モルガン・スタンレーはこの10年間で、インドが世界経済の成長の2割を担い、年間生産の伸びが4000億ドル(約52兆1200億円)を超え得るわずか3カ国の一角を占めると見ている。

ニレカニ氏は「人々は今後10年間に他のどの場所に資本を投じるべきか探っている。この15年、インドにこの種の関心が集まった時を私は知らない」と語る。

インド経済の変革Source: Bloomberg

もちろん、モディ政権の製造業を巡る野望は今に始まったものではなく、2014年から「メイク・イン・インディア」をスローガンに、中国やアジアのトラ(韓国、台湾、香港、シンガポール)と競うことを目指してきた。しかし、マッキンゼー・アンド・カンパニーのデータでは、国内総生産(GDP)に対する製造業の割合は20年時点で17.4%と、00年の15.3%からは上昇したものの、25%に引き上げるという主要目標の達成は容易ではないことが示されている。

G20サミットでのバイデン米大統領とモディ首相(インドネシア、22年11月)Photographer: Leon Neal/Getty Images Europe

ただ、今年20カ国・地域(G20)の議長国を務めるインドには弾みがついている。多角的な同盟関係に基づく外交戦略を展開し、米国からの圧力にも動じず、堂々と自らの利益に従いロシア産原油の輸入を33倍に拡大。隣り合う中国との緊張関係では現実主義の兆しさえある。アップルの中国サプライヤー十数社がインド政府から事業拡大に向けた初期の承認獲得に向け進んでおり、生産拠点の多角化に向けたインドシフトの動きを支える。

アップル中国サプライヤー、インドで事業拡大も-初期の承認得る運び

米国の駐インド大使を務めたケネス・ジャスター氏は、多極化する世界で中道を行くインドは「誰もが良好な関係を築くことに関心を抱く国」というイメージが強まっていると指摘。「インドはG20議長国としての立場を使い、東西、南北の架け橋として自らを位置付けようとしている」と語った。

昨年8月の独立75周年記念の演説でモディ首相は「われわれは今後25年間で先進国の仲間入りをしなければならない」と語っている。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)によると、同期間にインドの1人当たりGDPは一部の先進国と肩を並べるレベルに達するとみられ、この目標は達成可能ということになる。GDP成長率は法人減税や製造業への優遇政策、政府資産の民営化が後押しし、次の10年の早い時期に約8.5%でピークを付ける可能性があるとBEはみている。英シンクタンク、経済ビジネス・リサーチ・センター(CEBR)は、インドの経済規模は35年までに10兆ドルに達すると予想する。

官僚主義を打破

目標達成に向けてモディ氏は、独立国家としてスタートして日が浅かった時期の遺産を克服する必要がある。

14年に政権に就くと、モディ氏は「最小限の政府、最大限の統治」を掲げた。新しい首相として、公的サービスを受けるために賄賂を支払う文化も含め、「ライセンス・ラージ(許認可王国)」と呼ばれる迷宮のような制度から生じる混乱の完全払拭を公約した。同氏は政策を推進し、中でもインフラ投資は大きな功績と言えるだろう。

ただ、税金や紙幣などモディ氏の改革は、21年の大規模な農民デモにつながるなど後退を余儀なくされる場面もあった。

作家でプロクター・アンド・ギャンブル・インディアの最高経営責任者(CEO)も務めたグルチャラン・ダス氏は、モディ首相がサッチャー元英首相が英国を改革したようなやり方でインドを変えようというのであればまだ成すべきことは多いと語る。課題の一つは、依然として1日当たり数ドル弱で生活する多くの有権者たちは抽象的な投資拡大よりも具体的な電力無料化などに引きつけられるという点だ。ダス氏は「インドでは誰も改革を浸透させてこなかったため、改革は富裕者をより富ませ、貧者をより貧しくすると人々は信じている」と語った。

ただ、モディ政権の経済顧問サンジーブ・サンヤル氏は、こうした問題は若い国家ゆえに味わう困難と見なし、「われわれはついに官僚主義的な足かせを一掃しつつある」と語った。

格差拡大

ワールド・ポピュレーション・レビュー(WPR)によると、インドの人口は昨年末時点で14億1700万人と中国を500万人ほど上回ったと推計される。国連は年内にインドが世界一に浮上すると予測する。中国では急速に高齢化が進む一方で、インドでは国民の半分が30歳未満だ。

両国の大きな違いの1つとして、インドでは依然として中間所得者層がはるかに少ないことが挙げられる。インド準備銀行(中央銀行)のスバラオ元総裁は「格差拡大に目を向けなければ、成長の伸びしろは限られる」と語った。インドほど超富裕層が急速に成長している場所はない。 

また一方では、一部の若いインド人がホワイトカラー職に就きたいと、工場に勤務するくらいなら就職を先送りし、30歳未満の潜在的労働者の半分近くは職探しすらしていないという側面もある。

ビラジ・エクスポーツの工場(22年10月)Photographer: Anindito Mukherjee/Bloomberg

インドの将来には楽観的

こうした課題はあるものの、インドのビジネスエリートの間では楽観論が広がっている。起業家たちはリスクテークへの寛容さや旺盛な個人消費、デジタルスタートアップのための活気あるエコシステムを利用することに意欲的だ。

支持率70%超えとモディ氏の人気は引き続き高く、改革推進に向けて世界の多くのリーダーたちにはうらやましいような有利な位置にある。今月に入り首相は自らが所属する与党インド人民党(BJP)のメンバーに対しイスラム教徒など宗教上の少数派に手を差し伸べるよう指示。この珍しい動きは、G20サミットを開催に向けた準備として、宗派間の緊張を和らげたい狙いがある。

インドの医薬品メーカー、セラム・インスティテュート・オブ・インディア(SII)のCEO、アダル・プーナワラ氏は「われわれは楽観的だ。サプライチェーンや原油相場、インフレ、戦争危機などで混乱があっても、インドは根本的にうまくいっている」と語る。

原題:The Global Economy Needs a New Powerhouse. India Is Stepping Up(抜粋)

--取材協力:、、.

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著者:Kai Schultz、Vrishti Beniwal

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