「来ちゃった」 酒井順子著
書名は、宿願の地にとうとうやってきた、ということ。個性的な旅38回のエッセーは、どれも行き先と目的がユニークで観光名所はほとんどない。もっぱら列車に乗っての居眠り自在の気楽な旅が、いったん下車すれば参加型、体験型の気楽とは言いがたい旅に一変する。沖縄の多良間島、琵琶湖北岸、宮崎の椎葉村、福島・土湯、同いわき、宮城県田代島など地名を聞いてもぴんとこない所が大半だが、猫だらけの島、廃線の跡、箱蒸し風呂、キノコ狩りなどなど、旅の目的が多様で面白い。
場所と目的の意外性に読み手の波長が合えば、どの旅も十分楽しめるだろう。スローな文体と柔らかなイラスト(ほしよりこ)のおかげで、スローな旅の味わいを実感させられる。ツアー旅行とは対極にあるこんな旅にいざ自分も、と思っても容易ではなかろうが、本で楽しむだけというのも悪くない。しかも随所に出てくる満載のイラストも臨場感十分に堪能できる。(純)
小学館 1470円
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