アインシュタインの「余命を延ばした」手術の全容 偉大な科学者の動脈瘤を「セロファンでくるむ」

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こうした可能性やリスクを表現するときは、「30日死亡率」(術後1カ月で患者が死ぬ確率)、「罹患率」(手術によって副作用や合併症が起きる確率)、「再発率」(病が再発する確率)、「5年生存率」(患者が5年後も生存している確率)といった用語が用いられる。

現在ではほとんどの検査、疾病、手術で、こうした確率やリスクが算出されている。これらの割合を考慮することを、エビデンスに基づいた手術と呼ぶ。実際には、医学研究の文献で発表されたデータに基づいて手術を決定するのだ。

文献はインターネットで調べることができ、特定の問題について医学雑誌に掲載された論文がすべて見つかる。つまり現代外科学で重要なのは、白黒をはっきりさせることではなく、何の病に罹っている可能性が高いかや、手術が成功する可能性が高いか低いか、なのである。

もちろん、例外はある。診断からは想像もできない病気だと判明するケースや、余命わずかだというあらゆる予想を裏切って長生きするケースなど、まさかと思うことが起きることが患者の例から証明されている。外科とは相対的なものだという、外科の相対性理論を明確に裏づけるものだ。

アルベルト・アインシュタインが患った病

相対性理論の父、アルベルト・アインシュタインもそんな患者の一人だった。アインシュタインは大動脈に致命的な病を患っていたが、その症状は胆囊炎に似ていた。おまけに、その病から予想される余命よりも長生きした。

大動脈は身体のなかを流れる一番太い血管だ。胸腔を通って下方へ流れている血管なのだが、通常、腹部のあたり(腹部大動脈)は直径2㎝ぐらいの太さになる。大動脈の血管壁がもろくなると、血液の圧力で血管がゆっくりと風船のように膨らんでいく。他の心血管疾患と違って、原因が明確に特定できない場合がある。

このように動脈が膨らむことを「動脈瘤」、腹部大動脈が膨らむことを「腹部大動脈瘤(AAA)」と呼ぶ。動脈瘤が血流を妨ぐことはないので、通常は何の症状も現れないが、腹部大動脈瘤はやがて破裂するため、ある程度大きくなったら治療が必要だ。

腹部大動脈瘤の段階では症状がなくても、それがやがて急性腹部大動脈瘤(AAAA)を発症すると症状が現れる。動脈が突然緊張して動脈壁に小さな亀裂が入り、そこから血液が漏れ出すと、腹部か背中に激しい痛みが生じる。すぐに処置しないと、数時間後または何日か後には完全に破裂する。

アルベルト・アインシュタインは腹部大動脈瘤を患っていた。症状が出たのは数時間でも数日でもなく、何年ものちのことだった。

アインシュタインが相対性理論を発表したのは1905年、26歳のときだった。この理論は世界をひっくり返し、「E=mc2」は史上もっとも有名な公式になった。

ところが、ヨーロッパではファシズムとあからさまな反ユダヤ主義がはびこり始め、1933年にドイツで国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)が権力を掌握すると、ユダヤ人だったアインシュタインは、ニュージャージー州プリンストンから魅力的な招聘を受けてドイツからアメリカへと渡った。

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