「子どもの声を嫌う人」と折り合う道はあるか 都が「子どもの声」を騒音数値規制から除外

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「児童福祉法」には「健やかに成長するという子どもの権利」が規定されており、「子ども・子育て支援法」も「ひとりひとりの子どもが健やかに成長することができる社会の実現」をうたっている。子どもが声を出す権利は法的に保障されているのだ。

こうした問題については、すでにドイツは2011年5月に「連邦環境汚染防止法」を改正し、保育施設や遊戯施設から発生する子どもの騒音についての損害賠償請求を禁止した。それに先立って2010年2月には「ベルリン州環境侵害防止法」が改正され、子どもが発する音は成長の表現として保護すべきものであり、社会的相当性があるため受忍の限度内であることを明らかにした。「子どもの声」のみならず、それに付属して発生する音についても保護の対象としたのだ。

少子高齢化問題を抱える先進国では、子育て環境の整備は重要な政策課題になっている。とりわけ8672人もの待機児童を抱える東京都にとって乳幼児を受け入れる施設の増設は喫緊の課題であるが、それには近隣の住民の反対にあうことも少なくない。

ドイツも同じ悩みを抱えていた。子どもが発する騒音を理由に訴訟が相次ぎ、ハンブルグ市では住居地区にあった幼稚園が閉鎖に追い込まれたこともあった。そこでさらに踏み込んで「子どもの声」を「特権化」したわけだ。

都は、施設が近隣に配慮することを求める

だが東京都が「子どもの声」に対する新たな基準とした受忍限度論は、ドイツと同じものではない。「子どもの声」が法規制の対象から外れたのではなく、周辺の生活環境に障害を及ぼしているかどうかが具体的に判断されることになったにすぎない。その判断要素として、防音壁の設置など講じられた措置や関係者同士のコミュニケーションの程度も加味される。要するに東京都が基準とする受忍限度論は、コミュニケーションを通じて施設の近隣への配慮が進むことを目指すものといえるのだ。

その背景にあるのが、東京都が規制見直しに関して募集したパブリックコメントに対して賛成が6割、反対が3割だったことだろう。反対が賛成の半分を占めた意味は小さくなく、客観な数値規制から外すことで、曖昧にならないかとの懸念をどう解消させるかという重要な役割を受忍限度論は背負うことになる。

そのためには、反対意見を納得させるに必要な努力を施設側に求めなくてはならないし、条例を執行する自治体にも、受忍限度論は積極的に解決に導く役割を課すことになる。

実際には都内自治体の8割が騒音測定を行っておらず、約半数が施設側の防音工事費負担などについて把握していない状態だ。これについては東京都が具体的なQ&Aを作成するなど自治体支援に務める予定だ。

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