窮地に立つマクロン政権、反発必至の「年金改革」 フランスで抗議活動が激化、議会の解散・総選挙も

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8つの主要な労働組合は今回、団結して政府案に反対する方針を固め、1月19日から大規模なストライキや抗議デモを開始することを計画している。エネルギー価格や食料品価格の高騰による生活苦とあいまって、年金改革案の撤回につながった1995年の冬や、2018~2019年にかけてフランス全土に広がった「黄色いベスト運動」に匹敵する抗議運動に発展する恐れがある。

議会審議の行方も不透明だ。昨年4月の大統領選挙で極右政党・国民連合(国民戦線から党名変更)のマリーヌ・ルペン候補を破って再選を果たしたマクロン大統領だが、直後に行われた国民議会選挙では、左派勢力が結集した新人民連合環境・社会(NUPES)や国民連合の躍進を許し、大統領会派のアンサンブルは議会の過半数を失った。

野党勢力間の対抗意識や意見不一致に助けられ、ボルヌ内閣はこれまで不信任投票を乗り切ってきたが、議会審議は停滞している。議会の過半数を保持しない政府は昨年10月、議会の議決なしに法案を成立できる憲法49条3項の特例措置を使って予算を成立させた。

議会通過のカギを握る共和党

政府の年金改革案の議会通過のカギを握るのが、現在の政治体制である第五共和制を確立したシャルル・ドゴールなど、歴代大統領や首相の多くを輩出してきた伝統的な右派政党の共和党だ。

マクロン大統領が率いる中道政党・ルネサンス(共和国前進から党名変更)の右傾化と、国民連合の穏健化の間に挟まれ、共和党は地盤沈下が著しい。昨年の大統領選挙の初回投票では、ヴァレリー・ぺクレス候補の得票率が5%に届かず、直後の国民議会選挙でも改選前から56議席を失い、NUPESと国民連合の後塵を拝する第4党に転落した。

党勢回復を目指す共和党は昨年12月、反マクロンで党内最右派のエリック・シオティ国民議会議員を新たな党首に選出した。このことは共和党が中道に寄り、大統領に接近するのではなく、右傾化し、極右政党に奪われた有権者の奪還を目指すことを意味する。

共和党は年金の支給開始年齢引き上げなどの改革の方向性では政府方針と一致している。だが、マクロン大統領に批判的な有権者の支持を集めるためにも、政府案に賛成してマクロン改革の実現を助けたと受け止められることは避けたい。

政府の年金改革案は、マクロン大統領やボルヌ首相が示唆していた当初案と比べて、共和党の代替案に近い。共和党の修正提案に政府が応じた体裁を取ることで、共和党を懐柔する狙いがあったものと考えられる。

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