小栗旬「ハマりすぎない役者」に"ハズレ作"ない訳 「鎌倉殿」の次に選んだのは原点回帰の当たり役

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2013年に出演した『あかいくらやみ 〜天狗党幻譚〜』(長塚圭史作、演出)は、山田風太郎の『魔群の通過』をベースに長塚が描き下ろしたオリジナル戯曲で、幕末時代に紛れ込み天狗党の活動を目撃することになる人物を演じた。

ここでもまた、天狗党として活動する役ではなく、距離をもってその活動を見る役割なのである。2003年『ハムレット』、2013年『あかいくらやみ』、2022〜2023年『ジョン王』と同じシアターコクーンで、たまたま10年ごとに小栗は作品世界から少し距離をとった、観客の目線をガイドするような人物を演じている。

『ジョン王』の小栗は、20年前と比べると演技や発声のクオリティ、知名度だって随分上がっている。そしてますます、つくりものの世界に完全に溶け込まない度合いが強くなっていく。彼が市井の人のまなざしを代表する俳優で居続けていられるのはなぜか。

小栗は『ジョン王』に関するインタビューで、恩師・蜷川から「俳優は生活者であれ」という言葉を学び、それをいまだに意識していると語っていた。

「生きることに関してアンテナをちゃんと張りながら生きていなさいということだと受け取って、役者である前に生活者でありたいと思っています」(「SPICE」2022年11月11日配信)

それこそが松本潤が言う“違い”であり、小栗旬が出演する作品にハズレがほぼないのも、それゆえなのではないだろうか。どんなに奇想天外な話でも小栗が出ると、スターが演じている夢の世界ではなく、「自分のすぐ隣にあるかもしれない」と共感を持って見えるのである。

何をやっても「さまざまな市井の人」

『日本沈没―希望のひと―』(2021年、TBS)は、大地震によって日本が沈む危機に瀕する。『BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係』(2014年、テレビ朝日)は、頭に銃弾による傷を受けたことで死者と会話する能力が備わる。前出の『信長協奏曲』では、高校生が戦国時代にタイムスリップし、織田信長の身代わりになる。

どれもこれも、漫画やアニメが好きな人ならふつうに受け入れられるが、そうでもない人には、ん? と引っかかる設定である。それらを不特定多数の見るテレビのプライムタイムで放送しても案外視聴率がとれるのは、小栗旬がつくり込みすぎないからだろうと思うのだ。この手の現実離れした話では、演じる俳優も全身に力が入って過剰な演技をしがちなのだが(それはそれで良い)、小栗旬はいつでも不思議と自然体なのである。

次ページ演技の腕を磨くほど、ちょっとだけ浮遊していく
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