ロシアの大規模攻勢を跳ね返すウクライナの自信 「全領土回復」で米欧との意思が一致、軍事支援強化へ

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ロシア軍と正面から戦う中で、ウクライナ軍は2014年のクリミア併合以来、ロシアに占領されたままの全領土奪還を目指す方針だ。この背景には、クリミア半島の武力奪還を含め、ウクライナの戦略を追認したアメリカ政府の方針がある。

2022年夏まではプーチン政権を刺激し戦術核使用につながる恐れがあるとして、クリミア奪還にも難色を示していたバイデン政権は、今や全領土奪還に反対していない。核使用につながるとしてアメリカがウクライナに示していた軍事行動上の限界線、いわいる「レッドライン」は変化しているのだ。

実は、米欧が2022年秋以降、強力に展開してきた外交工作の結果、プーチン政権が核使用に踏み切る可能性についての米欧側の懸念は大幅に減少している。このため、ウクライナのロシアへの軍事作戦をめぐるアメリカからの異論は大幅に減ってきている。

こうしたアメリカとの腹合わせの成功について、ウクライナ政府のナンバー2であるイエルマーク大統領府長官は2023年1月3日、地元テレビとの会見で嬉しそうにこう誇示した。「サリバン(国家安全保障問題担当の米大統領補佐官)と電話で話し、今後のことに関し完全な一致に達した。勝利とは何か。受け入れられない妥協とは何か。戦争の目的とは、などでだ。われわれにとっての勝利は、彼らにとっても勝利となったのだ」と。

岸田首相は早期にウクライナ訪問すべき

サリバン氏との合意はウクライナにとって大きな意味を持つ。なぜなら、ウクライナ側に徹頭徹尾同情を示し、軍事的支援に積極的姿勢を示してきたオースチン国防長官とは対照的に、サリバン氏は対ウクライナ武器支援をめぐりバイデン政権内で最も慎重な立場をとってきた人物だったからだ。それゆえ、イエルマーク氏はサリバン氏との調整成功を喜んだのだ。

このため、ウクライナ側は、今後も米欧からさらなる強固な軍事支援を得ながら、ロシア軍に攻勢をかけることになろう。同時にプーチン政権や国際社会に対しては、ウクライナからのロシア軍完全撤退を和平交渉開始の前提とする姿勢をアピールしていくことになるだろう。

一方で、ウクライナ政府は2023年1月4日、ゼレンスキー大統領の意向として岸田文雄首相に対し、都合のよい時期にウクライナを訪問するよう招請した。これは米欧との連携強化を実現したゼレンスキー政権が2023年、先進7カ国(G7)議長国となった日本からもより強い支援のメッセージを受けたいという願望の表れだろう。

岸田首相は6日のゼレンスキー氏との電話会談で、越冬支援などウクライナとの連携を強化する方針を示した。筆者はこの発言がウクライナにとって、心強い発言だったと評価する。ただ、G7首脳会議(広島サミット)開催は5月だ。開催前の時点で越冬支援はもはや議論にならないだろう。このため、岸田首相にはなるべく早い時期にキーウ訪問を実現し、議長国にふさわしいより包括的なウクライナ支援策を提示してほしいものだ。

吉田 成之 新聞通信調査会理事、共同通信ロシア・東欧ファイル編集長

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よしだ しげゆき / Shigeyuki Yoshida

1953年、東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。1986年から1年間、サンクトペテルブルク大学に留学。1988~92年まで共同通信モスクワ支局。その後ワシントン支局を経て、1998年から2002年までモスクワ支局長。外信部長、共同通信常務理事などを経て現職。最初のモスクワ勤務でソ連崩壊に立ち会う。ワシントンでは米朝の核交渉を取材。2回目のモスクワではプーチン大統領誕生を取材。この間、「ソ連が計画経済制度を停止」「戦略核削減交渉(START)で米ソが基本合意」「ソ連が大統領制導入へ」「米が弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約からの脱退方針をロシアに表明」などの国際的スクープを書いた。

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