学歴を忌避する人を打ち負かす動かしがたい事実 小田嶋隆「学校のクラスは社会の階級の卵である」

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確かに、学歴は偏差値だけを手がかりにノベタンで並べられるほど単純な序列ではない。

JにはJの個性があるし、Kにはその偏差値の高低とは関わりのない独自の校風(塾風か?)がある。

が、そんなものが何だろう。

ファッションブランドにしたって、値段だけでソーティングできるものではないと言えば言える。エルメスにはエルメスのニュアンスがあり、シャネルにはシャネルのエレガンスがある。事実、昨今のちょっと工夫のある女性誌では、「ビビッドでリッチな個性にマッチした」「フェミニンな雰囲気の中にも一本芯の通ったキャラクターを感じさせる」てな調子で、ブランドの個性を表現し分けている。

が、そんなものはウソだ。「ウソ」が言いすぎだというのなら、「言葉のアヤ」と言い換えてもよろしい。いずれにしても、大差はない。

つまり、シャネルとエルメスの間に、「革新的」と「コンサバ」あるいは「キャリア志向」と「フェミニン志向」という個性の違い(って、詳しいことは知らないよ)があるのが事実だとしても、大多数の一般庶民からすれば、どちらも要するに「高級ブランド」なのである。

ベンツとBMWも、マニアに言わせれば「全然違う」らしい。クルマ雑誌の唱えるところに従って両者の特徴を列挙すれば、

・ベンツ=伝統志向、保守的、堅牢

・BMW=実験的、先鋭的、スポーツ志向

ということになる。なるほど、一見、まったく対照的なクルマであるように見える。であるから、ベンツのオーナーとBMWのエンスーは互いに相手を敬遠していたりもする。

でも、カローラのオーナーの目から見れば、ベンツもBMWも同じタイプの「高級外国製乗用車」という範疇(はんちゅう)に属するまったく同じクルマだ。個性は違っていても、「クラス」は同じなのだ。そして、世間が問題にしているのは、あくまでも「クラス」なのである。カーマニアが言い立てるテイストだのファントゥードライブだのといったものは、ただの飾りだよ。

そう、どんなに個性の違いを言い立てたところで、結局値段はついているわけで、なるほどベンツのゴーマルとBMWの800iの間にはテイストの差もあろうし、哲学の違いもあるのでしょう。しかしながら、どちらもオーバー1000万円の高級車であるという点ではまったく同じなのであり、最も主要な特徴もそこにある。

クラスは人間を序列化し、価値を画一化

であるからして、「私は偏差値で大学を選んだわけではない」というヤマダさんの主張は、半分しか真実ではありません。

あなたがKを選んだのは伝統ある塾風に共感を抱いたからであって、断じて偏差値エリート志向で大学を選んだわけではないといくら言い張ったところで、そんなお話は通用しませんよ。

小田嶋隆の学歴論
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「いや、オレはセックスがしたいわけじゃないんだ。ただ、夜明けのコーヒーを一緒に」

だなんて、今時、高校生だって言いませんぜ。

結論を述べよう。

学歴は、クラスを産む。

クラスは、人間を序列化し、価値を画一化する。

そして、クラスが暮らしを決定し、暮らしがクラスを限定する。

クラスからはずれると?

クラッシュだな。

小田嶋 隆 コラムニスト
おだじま たかし / Takashi Odajima

1956年東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの1人。著書多数。2022年、65歳で逝去。

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